全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(以降、DCON)は高等専門学校生が日頃培った「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」を活用した作品を制作し、その作品によって生み出される「事業性」を企業評価額で競うコンテストです。ウエスタンデジタルは、この「ものづくりに密着した『現場感のある』『実践的な』ディープラーニングの活用によって、『社会課題解決に取り組む』」コンセプトに共感し、特別協賛というかたちで参加しています。第三回目となる今回は、DCON2021で栄えある最優秀賞を受賞した福井工業高等専門学校「プログラミング研究会」チームの作品の紹介です。
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今回、企業評価額6億円、投資総額1億円、という過去最高評価額を獲得した福井工業高等専門学校(以降、福井高専)プログラミング研究会による作品「D-ON(ディーオン)」は、作品力のみならず、新規事業において重要な「ミッション」と「ターゲット市場」に対する提案力が強力でした。
1960~70年代の高度成長期までに建設された道路や橋、上下水道、公共施設などの多くが、50年を経て一斉に建て替えや補強が必要な時期を迎え、全国で補強工事や建て替え工事が実施されています。しかし一部の施設では工事が間に合わず、危険な状態と判断された施設が使用停止になるという事例もあります。
2012年、山梨県の笹子トンネルにて、天井板を支える金属ボルトの老朽化が原因で9人もの方が亡くなるという痛ましい事故が発生しました。老朽化したインフラの整備は急務ですが、人材不足により改修工事が満足に進められないという事象が全国で発生しています。また、改修にかかる費用は今後50年間で459兆円、年平均9.17兆円 ともいわれており、国や地方自治体の財政を圧迫しています(2017年3月時点、東洋大学大学院 根本祐二教授試算)。
この大きな市場と、そして人類にとって肝要な「人の安全を守る」という想いが、彼らのビジネスのスタートラインとなりました。
「D-ON」は、インフラの強度を判定するために、コンクリートなどを“叩く”「打音検査」に注目した作品です。
インフラ建造物は様々な素材や構造をもち、その検査には熟練技師による高い精度の技術が求められます。また既存の検査機器は設備が大がかりで、使用するにも手間と費用がかかります。
福井高専プログラミング研究会の二人が開発したのは、ハンマーのグリップに装着する装置。マイコンに搭載されたマイクが拾う打音データと6軸加速度センサーを使って、ハンマーが素材を打つときのインパクトから反発した座標データを用いて、打音データを収集。このデータをSDカードを使ってPCに移動。PCのデータをAIで学習・推論させるエッジAIと、クラウドAIをうまく融合させ学習させました。ディープラーニングによって判定の精度も高めたといいます。また、SDカードにさまざまなアプリケーションに向けた学習モデルを保存することで、カードを入れ替えるだけで様々な学習モデルを使用し、ユーザーオリジナルの検査モデルを確立することができます。
一般的なスマートフォンの計算速度でもモデル学習が可能です。センサーおよびマイコンとして使用するハードウェアは、IoT開発ボードM5StickC Plus。Wi-Fiによるデータのやり取りで、スマホアプリにデータを送ってオリジナルの学習モデルを作成できるようになっています。同チームは、打音検査10年のベテラン技師に協力してもらいながらディープラーニングの改良を繰り返し、異常を検知できる精度を93.3%まで上げることができたそうです。
「D-ON」は、習熟した検査員でなくても正確な強度検査ができ、かつ検査方法を常に複数人で定量的なデータとして管理して改良。より的確な判断軸をもつことも期待できます。
さらに、ハンマーの先に取り付けるだけのシンプルな仕組みのため、費用の面でも格段にリーズナブルになり、様々な素材や構造に対して応用もききます。
ディープラーニングによって人の技術の質が定量的に向上することに加え、ハードウェアもシンプルになり、費用が削減できる好例です。
最優秀賞他、若手奨励賞に加え、2つの企業賞を獲得して会場を驚かせた福井高専プログラミング研究会。「彼女をAIでつくるのが夢」という茶目っ気も見せる二人の快挙を支えた福井高専は、メガネや漆器などモノづくりで世界が認める最先端技術を誇る、鯖江市にあります。こうした環境が彼らの着眼点やアイデア、ものづくり力を支えているのでしょうか。
「社会が必要とする創造力と実践力を兼ね備えた人材」を育成するという学校のミッション実現に向けた力強い一歩を見せてくれました。
【DCONブログご紹介】
第一話:全国高等専門学校から、AIを日本産業の力に ウエスタンデジタル、ディープラーニングコンテストに協賛
第二話:総合2位、並びにウエスタンデジタル賞受賞チーム 「鳥羽商船高等専門学校」
最終話:総合3位受賞チーム「北九州工業高等専門学校」
【ご参考】
・福井工業高等専門学校ホームページ
・DCON2021(昨年度)ホームページ
・DCON2022(今年度)ホームページ