米国カリフォルニアにて開催されたFMS2024(Future of Memory and Storage Conference)にて、当社フラッシュ部門の上級副社長兼ゼネラルマネージャーのRob Soderberyが登壇し、NAND市場の動向の変化について見解を語りました。講演終了後、彼に市場の動向や技術革新、技術の進化に市場動向の変化が与えている影響などについて、さらには、彼が「レイヤー競争」と呼ぶ市場の技術競争の終焉について詳しく話を聞きました。
NAND市場は複雑ですが、実用的なNANDノードを作り出し、最終的に製品化するための製造プロセスはさらに複雑です。新たな時代の需給動向のために、この状況はさらに複雑化しています。新しいアプリケーション、特にAIがコンピューティングとデータストレージの双方の需要を大幅に増加させています。
市場の変化、経済の推進要因の変化に対応して近年、Soderberyとウエスタンデジタルのフラッシュ部門は、AI Data Cycleを策定しました。このアーキテクチャでは、データストレージによってAIモデルが成長し、AIがさらに多くのデータストレージを必要とするようになるという良い循環が描かれています。
ウエスタンデジタルはまた、NANDのリーダーシップの指針を定義、構築するための新たなアプローチを行いました。それは顧客にとって最も重要な機能である「性能」「容量」「消費電力」に焦点を当てており、市場が新時代に対して準備できるようにすることを目的としています。
「NANDの新時代(New Era of NAND)」という投資家向けイベントを、Soderbery は2人の専門家とともに開催しました。そのイベントにおいて、彼はこの状況を好機と捉えていると語りました。
「面白いことに、テクノロジー産業では、Web2.0のような分野に対して非常に厳格な経済的意志決定を行ってきました。eコマース、旅行予約、デジタルマーケットプレイスなど、こういったすべてのテクノロジー分野では基本的な経済構造が適用されています」とSoderberyは言います。「資本集約的で典型的な市場においては、業界が厳密な経済的枠組みを適用していなかったという点をとても奇妙に感じていました」。
しかし以前は、ほとんどの場合、マーケットリーダーは伝統的に、直感に基づいた意思決定プロセスに従っていました。このような経済的フレームワークを適用すれば、ウエスタンデジタルはさらに正確に需要を予測し、市場の弾力性を分析し、その他の経済的要因にも対応できるようになるとSoderberyは考えています。また、市場の方向性をより詳細なレベルで評価できるようになり、フラッシュ事業における意志決定プロセスに変革をもたらします。
Soderberyによれば、以前、NAND業界の主要プレイヤーのほとんどは、30%程度の安定したビットの成長目標を達成するために資本投資を行い、NANDを生産していました。その成長分は需要増が吸収してくれると想定していたためです。
「“NANDの新時代”で示そうとしたのは、これらの動的要因のすべてを定量的にモデル化できるということです。そうすれば、市場がどのような動きをするのかを提示でき、それに従って意志決定を行えるようになります」とSoderberyは述べています。
Soderberyと彼のチームは、需要曲線と供給曲線を正確に検討することで、NAND市場における主要要因間の均衡に関する問題を解決する方法を探っています。設備投資、ビットの成長、コスト削減を要因として考慮しなければなりません。
NAND市場やニュース媒体、さらにはNANDを求める顧客でさえも、レイヤー数(階層数)に囚われすぎている面があります。レイヤーが多ければ多いほど良いNANDフラッシュだと考えられているのです。レイヤーが増えればビット密度も容量も向上し、コストメリットが得られると仮定しています。そこにはどのメーカーが製造しているかなどは無関係で、レイヤーが最も多い製品が勝利すると考えられています。
「レイヤー競争とは、レイヤー数を増やせばコストメリットが得られ、取引においても優位性が獲得できるという考え方です」とSoderberyは語ります。
しかし、3D NANDについてはそう単純に考えることは正しくありません。超高層ビルを考えてみましょう。建築家が建物の階数を増やせば、同じ建物により多くのテナントが入居できます。しかし物理的なビル建設と同じく、ビルが高くなればなるほど、建築は複雑化しコストもかさみます。ある水準に到達すると、建物の階数を増やすために必要な追加コストは線形的ではなく、指数関数的に増大するようになります。
NANDメーカーがレイヤーを増やせば製造はより複雑化しコストも高くなります。その結果、コストや性能、容量を左右する経済要因との関係が変化してしまいます。
「この結果、コストが増大しています。ある時点から数字が逆転し、以前と同じ利益が得られなくなったのです。我々はこれからもレイヤーを増やしていきます。技術革新も継続していきます。しかし“レイヤーを増やすこと”だけがNANDの経済的要因のコアであるとは、もはや考えていません」。
新しいモデルの採用により、Soderberyと彼のチームは常に分析モードをとることになり、ビジネス上の意志決定が迅速化されました。
「年に一回集まって計画を策定するという、一般的な長期計画モデルとは対極にあります。この業界では、3週間後には計画が時代遅れになるからです。私たちは年に一度のビジネスプランは作りません。ほぼ毎週ビジネスプランを練っているのです」。
「NANDの新時代」では、フラッシュに対する要求はより細かく、用途に特化したものとなります。何を作るかによって、その内部でフラッシュの役割が変化します。大きさはどの程度か、容量がどの程度必要なのか、どの程度の消費電力が許されるかが決まるのです。
Soderberyとウエスタンデジタルのフラッシュ部門にとって、フラッシュの最も重要な構成要素は、「性能」「容量」そして「消費電力」の3点です。
「フラッシュ競争の次元が変わりました。レイヤー競争の時代には、階層数とコストだけが問題でした。しかし今は全く異なる3つのものを理解しなければなりません。性能、容量、消費電力。この3つが大きな要因なのです」。
求められるフラッシュストレージは、必ずしも可能な限り大容量で可能な限り超高速であるべきとは限りません。この2つの要素を改善しようとすると、動作温度が高くなり、装置内で求めていない大きな課題を生む場合があるのです。それは装置によっては解決できない、受け入れがたいリスクとなる場合もあるのです。
「どのようなアプリケーションでも、性能、容量、消費電力は、例えば性能を高めれば消費電力が多くなるといったように、競合が生じます。ウエスタンデジタルのポートフォリオで示したように、我々はこの3つの次元それぞれにおいて優れたNANDを提供しています。これらの要素は、特にAIにとって非常に重要な要素となっています」。
AIは注目されています。しかし未成熟な市場であり、需要が著しく増加する直前の状態にあると、Soderberyは考えています。
「AIでデータストレージ業界に何が起きているのか、その概要をAI Data Cycleで示しました。しかしまだ初期段階です。いまはまだ、既存の技術をAIに適用しようとしている場合がほとんどで、必ずしもAIに最も適した技術を適用しているとは言えません。しかしAIは私が提唱した3つの次元が実際に必要となることを示しているのです」。
AI Data Cycleのいずれのフェーズでも、性能、消費電力、容量は主要要素として考慮しなければなりませんが、ステージによって必要とされるものは異なります。初期のステージでは、モデルのトレーニングのためにできる限りデータを格納できる大きな容量が必要とされます。しかし、得たデータを解析・分析して活用するために、次のステップでは処理速度、すなわち性能がより重要な要素となります。
この始まったばかりの分野のために、Soderberyと彼のチームは、上記の3つの主要なニーズに対応するテクノロジーと製品の開発に取り組んでいます。大容量エンタープライズSSD、高速性能を得るためのQLCおよびTLCドライブ、大規模言語モデル(LLM)トレーニングや推論、AIサービス展開のために最高性能と最高の電力効率を実現するPCIe Gen5コンピュート・エンタープライズグレードSSDといったものです。
「お客様の視点で考えれば、最新のノードはどれかというだけではなく、特定の用途にはどのノードが最適かについてさらに検証、検討していくことになるでしょう。高付加価値の用途に対してすでに十分なビットが存在していると考えています。私たちの戦略の重要な部分は、市場で最も高価値かつ有効な用途にビットを振り向けることにあります」。
CBA(Circuit Bonded Array)技術を採用したBiCS8 218層NANDも視野に入っており、メモリとレイヤー密度、レイテンシ、転送速度の改善に大きな期待が寄せられています。
「NANDの新時代」についてさらに知りたい場合は、こちらの投資家向けイベントをご覧下さい。AI Data Cycleに関しては、こちらのプレゼン資料を参照してください。
著者: Owen Lystrup
※Western Digital BLOG 記事(AUGUST 6, 2024)を翻訳して掲載しています。原文はこちら。