2024年10月25日
次世代の自動車「SDV」が加速する

自動車業界そしてわたしたち消費者も、完全自動運転車を待ち望んでいる中、ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV:Software-Defined Vehicles=ソフトウェア定義型自動車)が一段と進化しています。かつては、機械のかたまりだった車が、次第にソフトウェア主導の製品になりつつあります。
メルセデスベンツやBMW、GMなど、世界の大手自動車メーカーを調査・分析したところ、各社とも研究開発予算の25~30%をソフトウェア開発に割り当てていることが明らかになりました。IEEE Spectrumの記事によると、1台の中型自動車に搭載されているこの膨大な量のソフトウェアは、1億5,000万桁を超えるコード、数百台の電子制御ユニット(ECU)、数千個の半導体に相当するとのことです。

「今後、自動車メーカーにとっての差別化要因はソフトウェアになるでしょう」と語るのは、ActiveRep GmbHのマネージングディレクターであるBrendon Hutton氏です。ActiveRep GmbHは、世界的な半導体企業の多層的代表制会社として、中央ヨーロッパの大手OEM、ティア1、ティア2サプライヤーと緊密に連携しています。

新しいサービスを実現するソフトウェア

車線逸脱警告システム、アダプティブクルーズコントロール、パーキングアシストなど、今日の安全機能はソフトウェアによって牽引されています。完全自動運転へと進化していくにつれて、ドライバーも同乗者も、よりカスタマイズされた旅を体験するようになるでしょう。

これらのイノベーションを実現するために、OEM各社は技術系幹部や何千人ものソフトウェアエンジニアを雇用することで、これらのパーソナライズされたユーザー体験サービスを実現しようとしています。ある情報筋によると、自動車のパーツリスト(BOM:Bill of materials)の40%はソフトウェアと半導体が占めているとのことです。

「OEM各社は、より多くのソフトウェアを社内開発するようになることで、自然な流れで自社の改革が必須事項となりました」とHutton氏は述べています。

Hutton氏がヨーロッパの大手OEMベンダーで着目している開発のひとつが、各乗客の座席が車体ネットワーク内の独自のノード(集合点)となる、よりパーソナライズされたオーディオ体験です。同乗者間でアクティブノイズキャンセル機能を働かせ、いわば見えない風船(バブル)のような個室空間を構築できるようになるため、同乗者は自分のバブルの中で自分だけのポッドキャストを聴くことができます。中国では、自動車メーカーが車内でカラオケを楽しめるような仕組みも構築されています(但しドライバーが運転中に気を散らさないよう、走行中は無効にされています)。

次世代自動車データネットワークに特化して起業(アーリーステージ)した自動車スタートアップ企業、Ethernovia社の事業開発担当副社長Christopher Mash氏は、進化するこの業界についてのHutton氏の見解に同意しています。「高度な自動運転が実現するだけでなく、さらに高度なカスタマイズが行われ、個々のドライバーや同乗者に合わせてすべてがカスタマイズされるようになっていくでしょう」と述べています。

こうしたソフトウェアと、カスタマイズされた体験へのシフトに伴い、自動車業界では車のメンテナンス方法にも大きな変化が見られます。折り畳み式の携帯電話からスマートフォンへ進化したのと同様に、自動車も製造時に機能が既に組み込まれたハードウェア主体のプロダクトから、サブスクリプションサービスを通じて持続的にアップデートされるIoTデバイスのような製品へと進化します。

ウエスタンデジタルのオートモーティブマーケティング担当ディレクターであるRussell Rubenは、次のように述べています。「以前は中古車を購入しても、その機能は基本的に車の寿命が来るまで変わることはありませんでした。しかし、より多くのソフトウェアが無線配信(OTA:Over-the-air)されるようになったことで、自動車は進化と改善を続けることが可能になりました。それこそがコネクテッドカーが目指す方向なのです」。

ECUの統合と集中型共有コンピューティングへの移行

これらのアップデートを配信するために、SDVは柔軟なアーキテクチャ上に構築される必要があります。かつてはナビゲーションなどのシステム内ソフトウェアやストレージは、車両内の他のシステムとは分離されていましたが、より集中型のコンピューティングモデルへの流れが加速しています。今日、自動車メーカーは、そのリソースを共有して、分離されていた類似機能を集約し、グループ化しています。

その一例として、ナビゲーション、計器盤、テレマティクスを統合した、改良型デジタルコックピットが挙げられます。これらの隣接するシステムをドメインに結合することで複雑さが軽減され、加えてECUの数も削減することができます。

高性能集中型コンピューティング(HPCC:High-Performance Centralized Computing)アーキテクチャでは、ECUや内部のストレージなどのリソースの共有化が進み、配線や使用するコンポーネントの数が削減されます。

HPCCアーキテクチャは、必要に応じて割り当てることができるリソースをプールします。ストレージであれば、複数のシステムで使用される同じデータを複数コピーすることなく削減できます。ひとつの例として、ナビゲーションや自動運転などのさまざまなシステムに提供される交通データがあります。

「車両全体のアーキテクチャにおいて、目標は車内で使われるプロセッサーの数を減らすことです」とRuben氏は語っています。「HPCCはこの試みを次のレベルに引き上げ、SDVの実現を後押しします」。

Ethernovia社は、車に配線される従来のデータケーブルを、車全体にデータ伝送するイーサネットベースのネットワークに置き換えることで、この次世代SDVの実現を目指している企業です。

Mash氏によると、従来の自動車の配線は、シャーシとエンジンに次いで3番目に重く、かつ最も高価な(コストの高い)部品だということです。Ethernovia社は、車両全体に張り巡らされた配線の量を減らし、それらを集中コンピューティングに置き換えることでアーキテクチャを簡素化します。車両のどこからでも任意のECUにデータをルーティングするこの機能は、SDVの成功へと導く、主要な要素のひとつなのです。

「つまり、Ethernovia社は車両の【神経系】を提供します。データの生成や計算は行いませんが、車両内のどこでデータが生成されようとも、どこで演算処理が行われようとも、そのデータを我々が生んだ神経、つまりネットワークで伝送するのです」とMash氏は説明しています。

エコシステムの標準規格

この新しいエコシステムが進化するにつれて、ソフトウェアによってより多くの機能が定義される自動車システムを構築するために、業界が共通の標準に従うことが重要になります。

「より多くの電子機器が車体に搭載されるようになるにつれ、自動車メーカーは乗客の安全を確保し、ハッカーが侵入できず、誤警報が鳴らないようにするために、数多くの安全機能やセキュリティ機能を備えるようになっています」と、ウエスタンデジタルの車載ストレージ・デバイスのASPICE認証を取得したチームの一員である品質保証担当ディレクターのSrinivas CKは述べています。「だからこそ、自動運転の分野では標準規格が求められ始めたのです」。

非常に多くのベンダーが連携し、はじめて自動車は完成するため、その開発や製造過程には標準規格なるものがとても重要です。「マルチソース化しなければテクノロジーのイノベーションは実現できません」とHutton氏は述べています。

コネクテッドカーにOTAソフトウェアアップデートが配信されるようになったとき、セキュリティ標準を遵守することでハッカーが侵入できないようにすることがいかに重要であるか想像してみてください。「自動車に故障は許されないのです。信頼できる乗りものでなければなりません。お客様はさらに厳格なプロセスを期待しています。当社では調達先のパートナー企業にも同じことを求めています」とCKは締めくくりました。

自動車のエコシステムが連携して次世代の自動車を提供する中で、SDVは完全な自動運転を目指して、カスタマイズの強化を進めています。

自動車はもはやマイクロデータセンターへと進化しています。そして技術が進歩するにつれて、私たちの車は車輪のついたリビングルームにも変わっていくことでしょう。世界の標準規格も、この流れに沿って規定されることは間違いありません。

アートワーク:Rachel Garcera(レイチェル・ガルセラ)

著者: Anne Herreria

※Western Digital BLOG 記事(APRIL 17, 2024)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

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