工場が産業革命を支えたように、情報化時代はデータセンターがその中核を担っています。エンターテインメント、公共サービスをはじめ、SNSなどのパーソナルコミュニケーションも、すべてデータセンターによって保存または仲介されており、仮想空間に参加するユーザーが増えるにつれ、高速で信頼性の高いデジタルサービスへの需要が高まっています。
しかし、データセンターは気候に大きな影響を与えています。電力を大量に消費し、加えて冷却のために莫大な量の水を使用するため、データセンターが設置されている地域社会に負担がかかる場合があります。気候変動の危機に直面している現在、このような技術関連施設はその危機に対応することが求められています。電力効率の向上は、経済成長と地球保護のバランスをとるための重要な方策の1つです。
インターネット上で生成されるデータの量は、毎年驚異的に増加しています。ある報告書によると、人類は2025年までに175ゼタバイトのデータを生成すると予測されています。同報告書では、インターネット上で生成されたデータの90%は、直近の2年間に生み出されたされたものだということです。
データ量が増加すると、当然ながら消費電力も増加します。1台のサーバーラックに電力を供給するためには、平均約8KWhが必要となります。一部のデータセンター顧客は、2023年には1KWhあたり月額250ドルを支払っており、これは前年比43%増でした。これらのコストを米国内の5,000を超えるデータセンターに当てはめると、この課題がどれほどの規模感であるかが浮かび上がってきます。
独立系データセンターアナリスト兼監査人のEric Woodell博士は、次のように述べています。「米国の総電力消費量の1.5%はデータセンターによるもので、この数字は増加の一途をたどっています」。
「徐々に改善するよう務めてはいるものの、残念ながらまだ、この増加を止めることはできていません。だからこそ、5年後や10年後ではなく、今すぐ持続可能な変革を起こすことが重要なのです」と彼は続けます。
私たちが普段なにげなく行っている映画のストリーミングやオンラインバンキングは、気候変動に影響を与えない行動だと思われがちですが、これらの行動を支えているデータセンターは、所在地域の発電施設から電力を得ており、その多くは化石燃料に頼っています。さらにデータセンターの冷却にかかる負担は、地域の水道供給に多大な影響を与えています。
情報通信技術を得意とする総合エンジニアリング企業、Syska Hennessyのシニアプリンシパル兼重要施設プラクティス担当の共同ディレクター、Josh Fluecke氏は、次のように述べています。「データセンターは今や欠くことのできないユーティリティであり、そのキャンパスは都市部の人口密集地に進出しつつあり、電気、上下水道などの地域インフラに負担をかけています」。
「運営会社だけでなく、近郊の住民にとっても、データセンターは一段と気候に配慮する必要がある施設であることが当然の認識になりつつあります」と彼は語ります。
データセンターは世界経済にとって、また私たちの暮らしに快適さをもたらす点においても不可欠であると同時に、明日ではなく今日の気候変動にとって大きな課題であるというのが現実です。今後10年間で新たに10億人がオンライン環境を獲得すると予想されているため、もはや猶予はありません。ハイパースケーラー各社は、再生可能エネルギーの採用や水資源を回復することを約束するなど、さまざまな取り組みを通じて改善を試みています。電力と水のシステム系全体の変革が鍵を握っている一方で、エンジニアリングやテクノロジーも重要な役割を担っているのです。
ウエスタンデジタルの製品は世界最大規模のデータセンターで使用されており、その消費電力を削減できる独自の技術とアイデアを築いています。ウエスタンデジタルのエンジニアは、この問題に対して多角的にアプローチし、データセンターが掲げる電力や水量削減目標や、消費者の要求を満たすよう取り組んでいます。
まず、データセンターはスペースとパフォーマンスを最適化するように慎重に計画・構築されています。超大容量の当社製品の「UltraSMR」などを活用し、より多くのデータを圧縮することでデータセンターの機能を最大化させ、その使用寿命を延ばすことができます。
ウエスタンデジタルのHDDビジネスユニット最高技術責任者であるXiaodong Cheは、次のように述べています。「大容量ドライブを使用することにより、データセンターは必要なドライブの総数を削減しながら、同じストレージ容量を達成できます。これにより、施設の設置面積が小さくなり、インフラストラクチャをサポートする複雑さが緩和され、電力と資源の消費量が削減されます」。
これらのテクノロジーによる効率化のメリットは明らかです。データセンターを26テラバイトのHDDで満たした場合と、18テラバイトのHDDで満たした場合と比べて、テラバイトあたりの使用電力(ワット数)は29%減少します。Cheによると、この例では個々のHDD容量を増やすことで、データセンターのコストも20%から25%削減できるということです。
ウエスタンデジタルは、ドライブ自体に加えて、同社のデータセンターストレージサーバーにおけるArcticFlowサーマルゾーン冷却設計など、独自のテクノロジーを開発しています。この設計では、ドライブやその他のハードウェアを再配置することで、シャーシ内に冷気を流通させ、システムの温度をより低く一定に保ちます。低温が保持されるため、ファンへの負荷が軽減され、電力が節約され、冷却の必要性も減少します。
「ウエスタンデジタルの取り組みは、スペースの有効活用だけでなく、さらに環境に優しく費用対効果の高いデータストレージソリューションへのコミットメントでもあるのです」とCheは述べています。
テクノロジーとデザインの革新に取り組む一方で、ウエスタンデジタルはパートナーと連携して、気候に配慮した世界のためにデータセンターを再構築しています。これは、エストニアに本拠を置く企業、Leil社がまさに目指していることです。
Leil社の創設者兼CEOのAleksandr Ragel氏は、次のように述べています。「当社にとってエネルギー削減の実現は、設立当初からの目標でした」。
業界の専門家チームによって設立されたLeil社は、特にアーカイブとバックアップストレージによって、データセンターの膨大な電力消費を削減しようとしています。SMRの威力に着目したLeil社は、ウエスタンデジタル製のカスタムパーツを導入することで、最大規模のデータセンターでのエネルギー排出量を約43%削減しています。
「SMRドライブは、標準的なHDDよりもテラバイトあたりの消費ワット数が抑えられているため、より少ない電力でより多くのデータを保存できます」とRagel氏は語ります。SMRに加えて、Leil社は最もアクセス頻度の低いデータを特定し、カスタマイズされたウエスタンデジタル製ドライブの特殊な電源ピンを介してそれらのドライブの電源を落とすシステムを構築しています。
「当社のアルゴリズムは、最終更新日などのメタデータを使用して、非常にアクセス頻度が低いデータを識別し、これらのカスタム電源ピンを使用して通電をカットすることで、エネルギー消費量を制御しています」とRagel氏は説明しています。
サービスプロバイダー、メディア、公文書館、スマートシティ、監視分野、科学産業、医療業界などが、こうしたグリーン化したデータセンターの恩恵を受けることでしょう。これは単なるコスト削減策ではなく、気候変動対策そのものなのです。
「拡張性に優れ、持続可能な最新テクノロジーを基盤として構築された手頃な価格のデータストレージが求められています」とRagel氏は強調しています。「それはあらゆる人が望んでいることだと思います」。
データセンターは、私たちのデジタルライフの中核にあり、気候変動との戦いにおける要です。 電力の効率化と持続可能なエネルギー源への移行を組み合わせることで、データセンターを持続可能な未来へと導くことができるでしょう。しかし、これらの施設が気候に与える影響がこれで終わるわけではありません。水の消費、レアメタルの採掘、製品の出荷、そしてデータセンターの建設そのものが気候へ悪影響を及ぼすことから、これらの対策も必要となります。
当社をはじめ、多数の企業がこの重大な課題に挑んでいます。しかし、だからといってこの業界が将来も安泰であるとはいえません。データセンターには、その資源と電力を今すぐ変革する責任があります。地球を救うためには、今日のこうした行動が、明日の途方もない努力よりも価値があるのです。
※アートワーク:Cat Tervo(キャット・テルヴォ)
著者: Thomas Ebrahimi
※Western Digital BLOG 記事(FEBRUARY 27, 2024)を翻訳して掲載しています。原文はこちら。