Shay Benistyが初めて特許取得に挑戦したのは、ほんの10年前のことでした。当時、彼は2つの特許を申請しました。彼の上司が、彼の年間業務目標に「毎年2つの特許を申請すること」という新しいタスクを追加したからです。
Benistyは現在、ウエスタンデジタルのASIC (特定用途向け集積回路) システムアーキテクチャーチームを率いるエンジニアですが、10年前の彼はなかなかやる気を出せず、特許申請の先延ばしを繰り返していました。ようやく提出したのは、業務目標に掲げてから11カ月が経過していました。
「当時は私にとって、特許の申請など達成不可能なタスクに思えました。何から手を付けてよいか、どのように進めたらよいのか、誰に助けてもらえばよいのか、まったくわからなかったんです」とBenistyは振り返ります。
どうなるのか予測がつかないまま、彼は社内審査委員会の会議用に10枚のプレゼン用スライドを用意しましたが、発表の持ち時間は数分しかないことを会議の直前に知らされたため、主なメリットを要約して発表しました。彼が提案したフラッシュのランダム読み取りコマンドを最適化する技術は、着想がクレバーであるうえに、実用的なメリットもありました。彼は審査をクリアしただけでなく、その後、スムーズに特許の申請も通過したのです。これを機に彼は「もっと特許取得に挑戦したい」と思うようになりました。
Benistyは、今や発明家として150件以上の特許を保有し (現在も増加中)、特許に値するイノベーションをいくつも見いだし、それらを実装するエキスパートとして活躍しています。オフィスでの彼は、六角形のかたちをした特許取得の盾で埋め尽くされた壁に囲まれながら、デスクに座っています。
「当社のようなテクノロジー企業にとって特許は重要です」とBenistyは述べます。「知的財産の保護だけでなく、発明者のモチベーションを高め、刺激を与え、イノベーションを次のレベルへと引き上げることで、その結果、テクノロジーと製品を進歩させることが出来るからです」。
イスラエルのベエルシェバ出身のBenistyは、ネゲブのベングリオン大学で電気工学とコンピューターエンジニアリングの学士号を取得し、優秀な成績で卒業しました。若い頃からエンジニアリングに関心が高かったものの、身内にその分野の経験者がいるわけではありませんでした。
「数学、物理学、コンピューターが大好きだったので、エンジニアリングの道に進むのは私にとって自然なことでした」とBenistyは語ります。
Benistyは学校の遠足で、当時の先生に「商人と偽のコイン」という数学の謎解きをさせられた時のことを思い出します。13枚の金のコインのうち、どれが偽物かを当てる問題です。
「使えるのは3つの重りだけでした」とBenistyは振り返ります。砂漠を横断するバスの中で、何時間もかけて考え続けた結果、徹底的な分析と独創的な思考により、彼はクラスで唯一答えを見つけ出し、賞を獲得したのでした。
Benistyは、問題解決への情熱を日々の仕事に注いでいます。
Benistyは、自身が指揮を執るASICシステムアーキテクチャーチームで、20人のエンジニアが属するグローバルチームを率いて、会社のフラッシュベースコントローラーのアーキテクチャーを担当しています。これらのチップは、ストレージデバイスとホスト、メモリー、内部ロジックなどのさまざまなインターフェイス間の接続を管理します。
「ASICのことを、ファームウェアが何をすべきかの計画を送信した後のストレージの“頭脳”と呼ぶ人もいます」とBenistyは述べます。「ASICは、パイロットに最適な進路、速度、滑走路へのアプローチを指示する航空管制官のように、計画の実行方法に優先順位を付け、最適化する方法を決定します」。
コントローラーを新機能で強化することに加えて、彼のチームはここ数年間、一般消費者向けのコンシューマー製品から、法人向けエンタープライズ製品までさまざまなフラッシュベースコントローラーアーキテクチャーの要素の統合に注力してきました。
「すべての製品ラインに適応する単一のコアアーキテクチャーを持たせることを目指しています。これにより、効率性と市場投入までの時間に多大なメリットをもたらすことができます」とBenistyは説明します。
10年前に初めて特許を申請して以来、Benistyは特許出願の際に達成すべきしきい値や、効率よく出願プロセスを進める方法など、イノベーションを生み出す特許出願に関するエキスパートになりました。
彼の特許の大半は、ASICの性能と電力使用量、予測機能、システム機能の改善カテゴリに分類され、場合によってはこれら3つすべてを組み合わせることもあります。
その一例が、「アクティビティベースのデバイス開始状態の遷移」という発明です。この機能は、ラップトップやスマートフォンなどのデバイスが、アイドル状態になるタイミングを検出し、それらの機能が再び動き出す、つまり「目覚める」までに必要な時間を予測するものです。この情報を備えたデバイスは、スリープ状態から復帰するまでの応答時間が短縮され、エンドユーザーへのサービス品質が向上します。このテクノロジーには、応答性と消費電力の適切なトレードオフを見いだすという、Benistyの得意分野が活かされています。
「クライアントデバイスに内部または外部DRAMがある場合、プラグを抜く際に生じる電力使用量の影響を受けやすくなります」とBenistyは述べます。「大規模データセンターにSSDが導入されている企業側の最大の懸念は、パフォーマンスとサービスの質に関するものです」。
Benistyとチームは、継続的に潜在的なトレードオフを評価し、電力とパフォーマンスの両面においてデバイスのアーキテクチャを最適化しなければなりません。
発明へのアプローチについて尋ねられたとき、Benistyは、まずそれが解決できる問題かどうかと、その解決方法について考える、と答えました。
「良い特許候補とは、斬新で、既存のソリューションから大きな進歩が示されるものでなければならないと私は考えます。明確な問題提起が必要であり、小さな問題を解決する特許よりも、より広範囲な課題の解決に役立つ特許の方が価値があるからです」とBenistyは述べます。
問題を特定したら、Benistyはいくつかの代替案を検討し、良い点と悪い点のリストを作成します。マイルストーンを達成するのに必要なリソースやスケジュールなどの制約と、完了までの最適な道筋を熟考します。
「するべきことを決める前に、問題に対する複数の解決策について考えるのが好きなのです」とBenistyは述べます。「解決策を1つ考えついたとしても、それで十分とはいえません」。これは彼が彼自身の人生の中で抱いている哲学です。
エンジニアのチームが新しい技術を実装するとき、新機能の提供までの作業に時間をとられるため、特許出願の手続きに時間を割くことが非常に難しいと言います。そのため新技術の実装に目処が立った後、Benistyは特許の候補となる技術を選定するために「休日」を取ることを奨励しています。
「私はチームに、一息ついて、自分たちが成し遂げたこと、実装した新しいテクノロジーのこと、特許を取得できそうな新しいアイデアについてなど、じっくり考える時間を自分自身に与えなさいと伝えています」とBenistyは語ります。「じっくり考えて、特許を出願しなさい!と伝えたい」。
また、彼はアイデアをブレインストーミングし、解決策を議論するためのワーキンググループを作ることも勧めています。アイデアのリストができたら、特許提案会議に持ち込み、アイデアを発展させます。
「コラボレーションすることで新しいアイデアが生まれ、新たな方向性とイノベーションを見いだすことができます」とBenistyは語ります。彼の特許の多くは、他のチーム (ファームウェアやアルゴリズムなど) が解決に対するそれぞれの視点を共有して力を合わせた結果であると、彼自身が認識しています。
「ただ、私が最もやる気を感じるのは、製品に実装され、競争優位性をもたらすことができる独創的なアイデアを思いつくことです」と彼は語りました。
文中イラスト: Chris Connolly
著者: Anne Herreria
※Western Digital BLOG 記事(January 9, 2024)を翻訳して掲載しています。原文はこちら。
戻る