2024年06月14日
30テラバイト超に備える — デュアルアクチュエータによる大容量&高性能ハードディスクドライブの実現

ウエスタンデジタルが開発・生産するハードディスクドライブ(HDD)に求められる要件は実に複雑です。1台のHDDには、主に日本に拠点を置く開発部門や、世界中にある当社の強力なパートナー(サプライヤー)の手によって生み出された、数百もの部品やコンポーネントが組み合わされ、無数のホスト通信を実行するために100万行以上のコードを駆使しています。

HDDは新たな宇宙時代にへ向けた、信頼性が高く、コストパフォーマンスのよいストレージの提供から、オンライン/オフラインを組み合わせたハイブリットワーク環境で働くビジネスパーソン向けまで、最も大規模で最もデータを必要とする組織において、前例のないビジネス ニーズを推進するために極めて重要なデータストレージです。

データ保存や管理へのニーズが高まるにつれて、より大規模で、より速く、より効率的なストレージの人気が高まっています。フラッシュ技術によりSSDは高速アクセスを必要とするホットデータに最適なストレージメディアとなりました。一方で、世界中に溢れる情報量に対応する、価格的優位性をもった大容量ストレージの需要が高まっています。

これを受けてウエスタンデジタルは、記憶容量の向上を進め、業界初の22テラバイト(TB※)CMRおよび26TB SMR HDDをリリースしています。当社のエンジニアリングチームはさらなる大容量化を推し進めており、Ultrastar DC HS760などのHDDに採用されているデュアルアクチュエータ技術は、30TBの壁を超える足掛かりとなるもう1つのテクノロジーです。

※1テラバイト (TB) は1兆バイトに相当します。動作環境により、実際のユーザー容量はより少なくなる場合があります。

超大容量HDDの未来に向けて

デュアルアクチュエータ技術そのものは、データストレージ業界では目新しいものではなく、HDDの容量を飛躍的に向上できる唯一の技術というわけではありません。しかしHDD容量の増大という目的を実現するために、進化へ向けたアイデアを与えてくれる優れた技術のひとつです。

たとえば、HDDの中にフラッシュメモリーを埋め込んだウエスタンデジタル独自のテクノロジーOptiNANDでは、データを記録・保管する円板(プラッター)に、さらに多くのデータを書き込めるようになりました。ePMR (エネルギーアシスト垂直磁気記録) を使用することで、エンジニアは効率と性能を損なうことなく信号干渉を制御しながら、大容量HDDの面記録密度を高めることが可能となります。

トリプルステージアクチュエータ (TSA) も、ウエスタンデジタルによる業界初のイノベーションであり、HDDの超大容量化に不可欠な技術です。アクチュエータは、HDD内の磁気ヘッドをプラッター表面の目標のデータ位置に配置するメカニズムです。シングルステージアクチュエータとして登場したものが、デュアルステージアクチュエータへ進化し、そしてTSAへと、さらなる進化を遂げました。ウエスタンデジタルのTSA対応ドライブは、実証済みのテクノロジーを組み合わせてアクチュエータに3つの独立したピボットポイントを作ります。機動性が向上することにより磁気ヘッドの位置決め精度が向上し、駆動音や振動が低減、読み出し/書き込み操作に必要なシークタイム(※)が短縮されます。

※データを読み書きするためにディスク上を磁気ヘッドが移動にかかる時間のこと

現在、データストレージ業界には、主にフラッシュストレージとHDDストレージの2つの選択肢があります。デュアルアクチュエータ技術とOptiNAND、ePMR、TSAなどのイノベーションが、フラッシュとHDDの特性を融合した新たなストレージへの道を示しています。これらのイノベーションによりウエスタンデジタルは、30TBを超えるドライブの未来を、つまりフラッシュの応答性を超大容量HDDに組み込んだデータストレージの未来を、お客様とともにかたち作ることができるのです。

容量が増えるとTBあたりのIOPSも増える

大量のデータを扱う企業や組織が30TB以上の超大容量HDDの誕生を期待している一方で、エンジニアにとっての課題は、さらに大容量のドライブでIOPS (1秒あたりの入出力操作) をどのようにして維持あるいは改善するか、です。

ウエスタンデジタルのHDD製品管理およびマーケティング担当SVPであるRavi Pendekantiは、この課題に対処するためにも、今こそがデュアルアクチュエータ技術を駆使した当社初のHDD、Ultrastar DC HS760をリリースする絶好の機会だと言います。

「片手を使って靴下のペアを探そうとしていると想像してみてください」とPendekantiは説明します。「小さなごみ箱の中であればすぐに見つかるかもしれませんが、5ガロン(約19リットル)の洗濯かごではなかなか見つからないでしょうし、25ガロン(約95リットル)の洗濯かごともなるともっと大変です。入れ物のサイズが大きくなればなるほど、両手を使えた方がはるかに楽になります」。

これが、デュアルアクチュエータの背後にある考え方です。

OptiNANDはHDDの容量を高め、トリプルステージアクチュエータはより高い面記録密度をより効率的にナビゲートするため、HDD全体のパフォーマンスの維持には磁気ヘッド自体により多くの要求がかかります。2つ目のアクチュエータを導入し、1つ目のアクチュエータと担当するプラッターを分けることで、ハードドライブは1TBあたりのIOPSを増やすことができ、レイテンシー(※1)を低減し、スループット(※2)も向上できます。

※1…指示(要求)してから応答(返信)までにかかる時間のこと
※2…一定時間内の処理能力やデータ転送量、速度のこと

適切な方法、適切なタイミングで市場の需要に対応

Pendekantiによると、デュアルアクチュエータドライブの獲得可能な最大市場規模 (TAM) は現時点ではそれほど大きくはありません。ただし、HDDの容量が増加するにつれて需要は高まると予測しています。

「これは電気自動車の市場に似ています」と彼は言います。「自動車そのものの技術革新への注目は常に高いですが、同時にインフラの整備も必要とされます。大規模な充電ネットワークが構築され、カリフォルニア州からテキサス州まで運転できるくらいの充電ステーションが完備された途端、電気自動車市場は大きく変わりました」。

Pendekantiの調査では、IOPSを損なうことなく、より大きなワークロードを処理できるデータストレージが求められているのは明白です。大量のデータを扱う企業は、日々生成される膨大なデータに対応するために大容量のストレージが必要になることを当然理解していますが、会話型AIや仮想現実といった、大容量且つ高速データ処理を必要とするユースケースが増えてきていることからも、容量だけでなく、そのパフォーマンスに対しても妥協することはできません。

そのようなケースに対応するためにデータセンターの拡張が必要となった場合、データストレージを増やすだけでなく、ストレージインフラの準備や拡張も同時に進めなければなりません。Ultrastar DC HS760 のようなデュアル アクチュエータ ドライブにより、ウエスタンデジタルは、顧客がさらに大規模なデータ集約型のワークロードに取り組む準備ができたときに、同社のテクノロジーがそれに応えられることを示しています。

著者: Jake Dawe

※Western Digital BLOG 記事(MAY 2, 2023)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

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