2024年02月22日
ネットゼロ・サプライチェーン

世界経済フォーラムによると、世界のCO2排出量の約80%をサプライチェーンが占めています。原材料、農産物、高級消費財はこのサプライチェーンを通して世界中に広がっているので、仮に彼らがCO2を1kg削減しただけでも、気候変動対策の大きな勝利につながります。

再生可能エネルギーや環境に優しい水素タンカー、電気飛行機といった、エコロジカルな技術が進歩した未来を想像するとワクワクしますが、排出量を削減するためには最適化と効率化が重要であり、データがこうした変革をけん引します。ルートの最適化から車両の脱炭素化方法の決定まで、データは企業規模の大小を問わず、あらゆる意思決定の中心となっています。

大規模に

世界中に何百万もの製品を出荷するグローバル企業は、輸送業界が注力しているスピードとコストに加え、持続可能性にフォーカスできる独自の立場にあります。しかし、最適化の影響とメリットについて理解を深めるアプローチがなければ、どこから始めればよいのか、そして最大の影響を与える要因は何かを知るのは難しいでしょう。そうしたビジョンがなければ、ステークホルダーから賛同を得ることも困難になります。だからこそ、データが大切なのです。

「データは噓をつきません」と、ウエスタンデジタルのグローバルサプライ計画部門でインダストリアル・エンジニアを務めるMahek Naresh Oberaiは述べています。「誰かがあなたにデータを示すことで、そこには担うべき責任と得られる影響が生じます」。

Oberaiは、ウエスタンデジタルにおけるグローバルサプライチェーンの最適化に取り組んでおり、何十万もの製品を製造現場から世界中のお客さまに届けるための、効率的で且つ持続可能な方法を模索しています。Oberaiとそのチームメンバーの努力によって、ウエスタンデジタルは2020年以降、サプライチェーンの年間CO2排出量を25万トン以上削減することができました。
これを実現するために、Oberaiらは同社の輸送管理ソフトウェアから、出発地、目的地、重量、所要時間などのデータを収集しました。これらの大量のデータを分析して気候に及ぼす影響を推定し、製造場所や製品の種類、消費者市場ごとに予想される影響をブレークダウンすることができます。このデータは、供給不足や悪天候などの課題を考慮した予測AIと組み合わされ、同社への影響を具体化することに役立ったのです。

データに加えて、Oberaiとそのチームは、ウエスタンデジタルのグローバル・ライトハウス施設4IR(第4次産業革命)機能を活用して、工場内の機械が稼働している箇所の見直しだけでなく、休憩中のカフェテリアの照明に至るまで、全世界に拠点を置く同社施設のオペレーションを的確に把握しました。これらの分析結果により、気候が同社に及ぼす影響について、より正確で新しいアプローチが可能になりました。

「この取り組みを始めた頃、ある人が私に、航空輸送と海洋輸送との違いや、輸送手段による気候への影響について質問がありました。なぜもっと航空輸送を増やさないのかを理解したい、とのことでした」とOberaiは振り返ります。「当時は、その質問に答えるすべがありませんでしたが、今では排出量データを使えば明確に説明できます」。

「これは重要な意識改革です」と彼女は語っています。

また、排出量データはウエスタンデジタルのESG目標(※1)の概要を示すのにも役立ちます。Oberaiは、各事業部門が会社の気候変動への影響を理解し、気候変動対策を推進するのに役立つデータは、こうした全社的な目標を支えることになると考えています。

「このデータの“種”を蒔いて、そして育てることが重要なのです」と彼女は述べています。「私たちの努力の甲斐があって、私たちウエスタンデジタルはESG分野で影響力のある企業として認められました」。

※1…環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を組み合わせた言葉で、企業が長期的に成長するために必要であると提唱されている経営・事業活動。

中小企業でも影響力は大きい

影響を受けるのはグローバル企業だけではありません。世界経済フォーラムは、サプライチェーンにおける中小企業の脱炭素化のためには、約500億ドルを投資する必要があると見積もっています。

中小企業には、大企業には有利になるリソースや影響力が欠けているため一筋縄ではいきません。固有の問題には固有の解決策が必要になります。米国サンディエゴを拠点とする新興企業のShuddlは、この課題のひとつの側面に注力して取り組んでいます。それは、トラックに半分しか荷物を積んでいない場合の空きスペースに関する課題です。

「当社は運送業界において、費用の問題だけでなく、排出量も含めたあらゆる無駄を目の当たりにしてきました」と、Shuddl創設者でありCEOでもあるSpencer Steliga氏は述べています。「貨物トレーラーの54%は満載ではないことがわかったので、その無駄を省く方法を探求しているのです」。

Shuddlはデータを利用して、ドライバーのルート上に、追加料金で引き受けられる貨物があることを通知します。これは、すでにチャーターされているトラックに荷物を積み込むことで、ドライバーが多少の収入を得るだけでなく、空気中に放出される二酸化炭素を減らすというアイデアです。これを可能にするために、ShuddlはデータとAIを使用して、配送とドライバーをマッチングする物流ハブのモデルを構築しました。

「全米に約14か所あるデータポイントに基づいて都市のベースラインを作成し、そこからAIモデルを成長させます」とSteliga氏は語ります。「我々のような決して大企業ではない事業規模でこのような画期的な策が可能になったのは、AIの進化があったからこそです」。気候関連の新興企業の中にはムーンショット(※2)を狙っているところもありますが、Shuddlは即効性の高い成功を目指しています。

「米国ダラスでこのビジネスを展開していますが、アトランタのような都市にも貨物輸送において同様の傾向があることが分かっています。AIを使うことで、ベースラインモデルを短期間で開発し、すぐに導入します。現場で使いながらテストを繰り返すことで、さらにそこから成長させることができるのです」とSteliga氏は語っています。「たとえうまくいかなかったとしても、財務上の影響は若干ありますが、今後のためにモデルを修正すればよいのです」。

しかし、どのような取り組みにも課題はあります。Steliga氏のビジネスは、主に運送業界で得たデータを活用することで効果を得ていますが、これらのデータ(資産)は、なかなか公開されておらず、限られたデータしか入手できません。これまでShuddlは、自社がコンタクトできるドライバーや倉庫から直接収集したデータのみに限定されていました。

「データの透明性こそ、私が重要視していることです。各社がもつ貴重なデータを共有することで、世界の生産性が上がることは明白です。なぜ各々の会社が各自で抱え込んでしまうのでしょうか?」とSteliga氏は疑問を投げかけます。「なぜみながつらい思いをしなければならないのでしょう?」

※2…アポロ計画のような「非常に難しいが実現すれば多大な効果が期待できる大きな事業や研究、計画のことをいう。

前進する

イノベーションとテクノロジーは、気候変動対策にとって重要な要素ですが、私たち全員が共通の言葉で話さない限り、前進することは難しいでしょう。Steliga氏は、データがブロックチェーンを活用した脱炭素社会の基礎になると考えています。しかし、それは私たちが得られる「共通の言葉」が公開され、透明性ある議論ができることでのみ達成されるのです。データこそがその共通の言葉であり、私たちの理解とコラボレーションを促進してくれます。

「5年前には、今日のようなESG目標を掲げることはできませんでした。先に進む前に自分の立ち位置をよく確認する必要があります」とOberaiは述べています。

「だからこそ、データが重要なのです」。

文中イラスト:Rachel Garcera

著者: Thomas Ebrahimi
※Western Digital BLOG 記事(OCTOBER 3, 2023)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

戻る