2023年12月08日
色彩とデータの素晴らしき世界

色とデータは、長い間とても奇妙で親密な関係にありました。芸術家は長年にわたり、そのキャリアを通して色を探求し理解していきますが、一方でコンピューターは難なくこの不思議な事象を分析できているように見えます。
RGB、CMYK、16進コードなどは色を正確に表現します。いずれの文字や数値も、色相から彩度まで、色の何らかの側面を表現します。しかし、芸術と技術が交わることで、いったい何が可能になるのでしょうか? デジタルの効率性と個人の芸術性がどのように融合すれば、私たちを取り巻く世界を鮮やかに描く力を人々や企業に与えることができるのでしょうか?

管理された色

色に対する理解が深まることで意思決定が強化されるという一例が、カラーマネジメントという新たな分野です。エセックスを拠点とするクリエイティブ・プロダクション・エージェンシーであるEC2iは、雑誌、オンライン、および製品自体で消費者が目にする色をすべて同一に見えるようにするカラーマネジメントサービスを提供しています。

「それを可能にするのがカラーマネジメントの技術であり、複数の異なる素材の表面に同じ色を再現します」とEC2Iのマーケティング・テクノロジー・スペシャリストであるAlan Cansick氏は述べています。「色見本、生地見本、紙素材を分析し、そのデータをレタッチや色合わせをする際に活用します」。

こういった色の一貫性が極めて重要な分野のひとつが、ブランディングです。色は、それだけで人の感情を動かし、行動を喚起するのに十分な力を持っています。そのため、紙のページ、画面、そして製品において同じ色に見えることが重要になります。

「コカ・コーラの赤色は、世界のどこにいても、印刷物、オンライン、店頭にかかわらず、すぐに見分けることができます」とCansick氏は語ります。「その理由は、スクリーンや印刷工程の特性データを測定して調整することで、それぞれの種類の用紙でその色がどのように再現されるかを正確に予測できるからです」。

「色がどこに配置されても完全に一貫性が保たれます」と彼は述べています。

Cansick氏は、これまではカラーマスターと呼ばれる専門家がすべての作業を肉眼で行っていたと説明しています。ロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーションのような学校に通う学生たちは、色のエキスパートから色彩の複雑性について学内で訓練を受け、印刷業界について広範な知識を得ています。その訓練には、デジタルの助けなしで、色の正確なRGB値やCMYK値を識別する試験が含まれていました。今日、Cansickは分光光度計と呼ばれる手法によって色の一貫性を実現することができます。この手法は、デバイスにより光の吸収率やサンプル内の化学物質の数を測定します。

得られたデータは収集され、EC2Iのライブラリに追加されます。このライブラリには、どのような環境でも色を再現できるよう、無数の色と素材の組み合わせがカタログ化されています。同社には、顧客に最高のサービスを提供するために、長年にわたって収集された物理的なサンプルと照明の制御機能を備えたサンプルルームも完備しています。

「かつては魔法と呼ばれ、いったいどうしたらそんなことができるのか?と聞かれたものです」とCansickは回顧しています。「しかし、実際は25年以上かけて色データと素材データを取得し、色を再現してきたのです」。

予測した製品の色

データと色の使用事例は、同じ色を再現することだけではありません。データは、消費者の目を惹きつけ、想像力をかき立てる色を選択するのに役立ちます。ウエスタンデジタルの工業デザイナーは、世界中のカラーデータを分析し、自社製品「WD My Passport SSD」のボディカラーを選定しました。これは色彩によって実利的な技術製品に感情豊かな表現が加えられることが分かっているからです。
10年以上前に、ウエスタンデジタルの工業デザイン担当ディレクターであるAlfonso Calderonとそのチームは、新学期シーズンに向けて同社の製品販売を勢いづける任務についていました。季節限定の特別セールに触発されたチームは、鮮やかな色彩を採用することに決めました。

「しかし無造作に色を選ぶわけではありません」とCalderonは語ります。「セールが盛り上がっている最中のトレンドにあわせて製品を発売したかったので、色を選ぶ作業は1年前に始めました」。

元々、Calderonとそのチームは、手作業でオフィスの床にカラーボードを並べていました。ファッション、スポーツ、テクノロジー、ポップカルチャーなどの雑誌の切り抜きがきれいに整理され、将来の色を俯瞰することができました。特にコロナ禍でチームが直接会うことができなくなってからは、このプロセスはデジタル化され、データ駆動型へと移行しました。RGB値のExcelシートは、一部の自動化支援とデジタルツールで構築されています。それでもチームはいまだに自分の肉眼を信頼しています。

「色を整理するときは、何千もの黄色の画像を見ます。黄色だけでも5,000枚もあるからです」とCalderonチームの工業デザイナーであるJulia Gronewoldは述べています。「通常、最初は自分の目だけに頼っていますが、その後、詳細に検討するにつれて、データを使用して見ているものを正確に把握します」。

「やがて、私が求めている色合い、色のトーンが明確になっていきます」とGronewoldは説明しています。

データはチームの思考を牽引していますが、デザイナーのチームは芸術的な感性も持ち合わせています。彼らの作業は、芸術性とデザインが複雑に交わる領域にあります。両者のバランスを取ることによってのみ、チームはビジネス目標を達成しながら魅力的な色彩を選択することができるのです。

「デザイナーは、アーティストとは何かを理解していて、アーティストと同じスキルも備えていますが、問題はそのスキルをどう使うかだと思います」とCalderonは述べています。「アーティストであるということは、自分の好きなことをするということです。デザイナーであるということは、誰かのニーズを満たすということです。両者のスキルセットはよく似ていますが、達成する目標が異なっているため、そのスキルの使い方も異なるのです」。

環境への配慮

RGB(124,252,0)とRGB(127,255,0)のどちらを選択するかというのは、こだわりすぎ、あるいは根拠もなく適当に選んでいるように思えるかもしれませんが、色の一貫性という面においては、まさにビジネス価値があるのです。EC2Iにとって、その価値は顧客のコスト削減にあります。

「これは、カタログやオンライン広告を通じて顧客に色生地を販売しているファッション小売業者にとっては、格別に重要となります。ほとんどの客は、自分が持っている靴やバッグに合う色の服を買うからです」とCansickは述べています。「カラーマネジメントがなされていないため、広告では青に見えた生地が実際は緑だったら、客はその商品を返品し、売り手は何百万、まさに何百万ドルもの損害を被ることになります」。

ウエスタンデジタルの工業デザイナーにとって、データに基づいた色の選択は、販売と顧客満足度の向上に寄与しています。現在、同社のコンシューマ向け製品のいくつかに、そのプロセスを実装しています。

より広い視野に立つと、そこには芸術と技術との関係という新たな課題が見えてきます。EC2Iとウエスタンデジタルの両社は、自分たちの仕事は芸術性と技術性の中間に位置していると考えています。技術的なノウハウが不可欠なのは言うまでもありませんが、それでも彼らは、直感的な、つまり「感覚」としか言いようのない判断に対しては、いまだに自分の肉眼に頼っています。

色は芸術性の紛れもない一部であり、ある人々にとっては生活の中心であり続けますが、技術は私たちの素晴らしき色の世界をよりよく理解するのに役立っているのです。

著者: Thomas Ebrahimi
※Western Digital BLOG 記事(MARCH 24, 2023)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

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