アメリカ航空宇宙局(NASA)は、当初より宇宙の写真がそのミッションにおいて重要な役割を果たすであろうことは分かっていました。孤独な青い惑星の画像や、宇宙飛行士が宇宙を遊泳する映像をパブリックドメインで公開することは、その成果を壮麗なイメージで一般に伝えると同時に、未来のエンジニアや科学者を勇気づけることにもなります。
時が経つにつれて、写真技術は窓の外へカメラを向けて撮影していた時代から、強力な鏡と望遠鏡を使って、あり得ないほど遠くの被写体を撮影する時代へと発展していきました。NASAにとって、これらの画像を世界中で共有できるようにするためには、写真とデータに関する課題を克服する必要がありました。オリジナルのブルーマーブル画像から最新のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の画像まで、宇宙探査のビジュアル・アイデンティティは常にデータによって支えられてきたのです。
宇宙は過酷な環境と予測不可能な要素に満ちた、極めて不安定な空間です。このような変わりやすい被写体を撮影するには、複数のテクニックを駆使する必要が有ります。たとえば、天の川銀河は、その広大な範囲が宇宙塵によって覆われているため、可視光線では見ることができません。このような天体を捉えようとしても、ほとんど黒くなるだけです。しかし電波は宇宙塵を通り抜けます。
電波画像のような発見は、宇宙写真で通常使用されている多くの手法を支えています。紫外線写真は、紫外線の2次元画像を作成することで、銀河系外の惑星や星が姿を現します。光スペクトルの極端な領域で画像を捉えるために、赤外線カメラは赤外線を放射する物体に焦点を合せます。また、電波画像撮影は、宇宙空間をスキャンして画像を構築しますが、各画素を画像データに割り当てて宇宙空間のモザイクを作成します。
これらの手法では、1枚の写真を作成するだけでも膨大な画像データが必要となります。この画像は、南アフリカ共和国のMeerKAT(ミーアキャット)電波望遠鏡によって撮影された天の川の中心部分ですが、20回にわたる電波観測データをつなぎ合わせて完成しています。この1,000×600光年のパノラマ画像1枚には、70テラバイトの電波画像データと、3年の処理期間が必要でした。
70テラバイトは膨大なデータです。それがたった1枚の画像の作成に求められるのです。このミッションが継続している間は、このようなデータが常に発生し、時には1日だけで100テラバイトに達することもあります。宇宙ミッションの実行中にデータをローカルに保存し、その後の処理のために地球に送信することが宇宙写真の重要なプロセスです。
衛星カメラからのデータは、取得された後、一旦ローカルに保存されます。ウエスタンデジタルのIoTセグメントマーケティング担当ディレクターであるYaniv Iaroviciは、VentureBeatへの寄稿記事の中で、宇宙でのデータ保存が抱える固有の課題を解説しています。Iaroviciは、こうしたユースケースにおいては信頼性とデータの完全性が特に重要であることを力説しています。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)のようなミッションでは、莫大な費用、時間、労力が必要になります。したがって、ドライブが破損して、収集したデータが失われ銀河系を漂うような事態になれば実に悲惨です。同様に、これらのミッションでは人類には決して複製できないものを捕獲することになるため、地球に帰還した際にそのデータが利用できることが極めて重要になります。
ロケット打ち上げ時の衝撃に耐え、大気圏を離れ、宇宙の過酷な温度や銀河宇宙線にも耐え得るレベルの性能も求められます。これらのゴールとハードルは、信頼性設計(DfR)として知られるアプローチの中核を成すものだとIaroviciは説明しています。信頼性設計は、機器に対してNASAが制定した標準規格で、ウエスタンデジタルは「宇宙グレード」の品質を確保するため、この規格を自社のストレージデバイスに実装しようとしています。
一旦データが安全に保存されると、さまざまな宇宙のミッションはそのデータが電波によって地球へ送信されるのを待ちます。ここでも、信頼性と完全性が重要視されます。ミッションコントロール部門では、データの完全性を確保するために伝送速度とデータ量を注意深く監視します。これは、バランスを保つ演習でもあります。つまり、データが衛星の記憶容量を超えないようにしながら、伝送中の損失を防止しなければなりません。
NASAは、こうした慎重な任務を可視化し共有するために、NASA’s Eyesプログラムを通じてDeep Space Network Nowを立ち上げました。Deep Space Network Nowは、スペイン、オーストラリア、米国にある3大通信アンテナのダッシュボードを表示することで、現在進行中のNASAのさまざまなミッションとのリアルタイム通信とデータ伝送を一般に公開しています。距離、往復時間、ビットレートなどの指標によって、データの危険な旅路が鮮やかに描かれています。
宇宙写真は、ビジネスや科学への貢献に限らず、NASAのミッションを伝える上で極めて重要な役割を果たします。科学は、技術的な業界用語や複雑な数学がハードルとなり理解することが困難ですが、写真は普遍的なものです。これらの画像は、私たちが宇宙のどの部分を観測し、そこで何を見ているのかを物語っています。それは、数え切れないほどのエンジニアや科学者の努力の賜物であり、さらに無数の人類の起源の物語でもあるのです。JWSTに代表される画像は、前進し、想像し、探求し続けるよう現代人を鼓舞します。その驚異は、宇宙物理学者であれ、生態学者であれ、多くの科学者にとってキャリアの原点となるものです。彼らは、たとえ実際の宇宙の星には着陸できなくとも、科学の星々に降り立つことはできるのです。
著者: Thomas Ebrahimi
※Western Digital BLOG 記事(JULY 12, 2022)を翻訳して掲載しています。原文はこちら。