2023年06月09日
カラダに装着、“ウェアラブルデータ”

一般消費者向けの、いわゆる「コンシューマーデバイス」は、ますます小型化、高速化、シンプル化されていく傾向にあります。腕時計タイプを主とするリアルタイムのバイタルを追跡するウェアラブルバイオセンサーなどの機器は私たちの生活にすでに一般的で、そのメリットはより大きなものとなっています。ウェアラブル端末は私たちの身近な存在となっており、業界は2026年までに市場規模を2,654億ドルに倍増させたいと目論んでいるようです。
ウェアラブル端末が私たちに与えてくれる数えきれないほどのメリットの中でも特に際立っているのが、データを通じて独創的な洞察を得られる可能性があることです。ウェアラブル端末は、日常の中から洞察に満ちた情報にアクセスし活用するためのまったく新しいツールです。個人の健康に関するデータからVR(仮想現実)やAR(拡張現実)を超えたMR(複合現実)まで、ウェアラブル端末は私たちの生活が生み出すデータへのユニークなパイプ役を果たしてくれています。
主たる3つのウェアラブル端末の機能を調べてみると、データを興味深い、そして斬新な方法で私たちに伝えてくれていることがわかりました。

手首に装着

スマートウォッチは、ウェアラブル端末の市場で桁違いに普及しており、最も成功しているツールです。それらは健康グッズとして販売されており、日常習慣に関するデータを収集して私たちに知らせてくれます。健康状態や睡眠の質をモニターでき、さらには心電図も確認できます。しかし、これらの機能はほんの一部に過ぎません。
スマートウォッチの分野では、リアルタイム検出や予測機能に関しても、さらに革新的な進化を遂げる余地があります。たとえば健康状態を示す指標が低下したことで私たちの体に潜む病気を予測し、知らせてくれる機能が近い将来組み込まれる可能性があります。これはすでに研究で裏付けられています。2020年の研究結果では、スマートウォッチがインフルエンザなどの症状を示す病気を検知できることが明らかになりました。また別の研究ではライム病(※1)を判別できることがわかりました。しかし実用性の面ではまだ課題があります。新型コロナや呼吸器疾患を識別するのは困難であり、どのような病気にかかっているのかを正確に診断することはできません。それでも身体の状態に対する洞察力は優れています。
フィンランドの健康技術企業、Oura社のCEOであるHarpreet Rai氏はThe Vergeのインタビューで、「スマートウォッチは車の警告灯のようなものです。」と語っています。「何が問題なのかはわからないが、おかしな所がある事はわかります」。
「警告灯」とは、まさにぴったりの言葉です。スマートウォッチから収集できるデータは極めて少量であり、それだけではさまざまな状態を明らかにすることはできません。それでも、データを一貫して継続的に収集する仕組みに可能性が秘められています。このウェアラブル端末は体温の上昇、心拍数の増加、睡眠不足、身体活動の増減といったデータを日々少しずつ収集し、一週間分、一か月分などと、ある程度まとまったデータにして分析することで、私たちの健康状態に関する洞察を提供してくれます。データ収集の一貫性と持続性により、その分析結果を私たちユーザーへ適切にフィードバックすることが可能となり、小さなデータ、しかし確実なる事実の集合体が威力を発揮してくれるのです。

肌に着る

皮膚装着型のウェアラブル端末は、業界の中でも驚くほど発展した分野であり、特にヘルスケア用途に的を絞った医療デバイスが進化しています。スマートウォッチが一般的な生体データを収集するのに対し、この皮膚レベルのインプラントは、脳卒中のモニタリングや言語療法時の活用など、より具体的な用途に焦点を当てた開発が進んでいます。薄型なので長時間の装着に適しており、長期に及ぶリモート医療などでも活躍が期待されます。

同時に、これらのデバイスはアスリートにとっても欠かせないツールになりつつあります。このデバイスがもつ特徴のひとつ、ある特定分野に絞り込んで計測できる性質を利用して、アスリートたちはトレーニングや過去のパフォーマンスから得たデータをもとに、次の試合のパフォーマンスを最大化できるよう体調を整えることができます。アスリートたちを支えるコーチもこのデータを活用することで、試合当日の選手たちの運動量をより適切に管理し、体力を維持させることが可能となります。コーチはまた、試合に出場しなかった選手に対して、翌日のトレーニングで上げるべき運動強度を把握することもできるようになります。
負傷した選手に対しても、運動強度やバランス、スピード、その他のパフォーマンス指標の詳細を知ることができるので、怪我の回復状況をチェックするのに役立ちます。これらのデータは、選手の疲労による怪我の悪化を防いだり、あるいは再び怪我を負うことのないようにフォームを修正するなどの重要な手がかりとなります。
世界トップレベルのアスリートであれば、コーチからの言葉によるアドバイスだけでもパフォーマンスを発揮してくれるかもしれませんが、皮膚に装着したデバイスを活用することで、目視確認の裏付けとなる確かなデータを提供してくれます。例えば、陸上競技のトレーナーは選手に対して、タイム以外の指標を加味したラップタイムを評価、分析できます。選手の心拍数が適切な範囲に収まっているか、あるいは最適な走り幅であるかどうか、呼吸による酸素摂取量が最適化されているかなどをチェックできるのです。高いパフォーマンスを得るためには、こういった数値が競技の成績と同じくらい重要となります。ウェアラブル端末はこれらの指標を知るための新しい窓を開いてくれます。アスリートやコーチたちは、競技における優位性を得るためにたゆまぬ努力を重ねています。現在、そして将来はさらに、データがもつ役割は重視され、栄光か敗北かをデータが左右すると言っても過言ではないところまできているのです。

それとは見えないかたちで

スマートグラス、すなわち電子ウェアラブルメガネは、市場に華々しく登場したにもかかわらず、業界ではいまだに予測不能な可能性を秘めた製品と評されています。たとえばGoogle Glassはデビュー当初、日常をデジタルライフに変えるシームレスなツールとして広く報じられ登場しました。しかし今日、そのような未来はまだ実現しておらず、その用途について消費者と開発企業との間で意見が分かれています。アイデアは素晴らしいが、まだ実用的なレベルに達していないということでしょうか。

現在、MicrosoftとGoogleは、Hololens 2とGoogle Glassをある特定の企業に導入してもらい、複合現実下でのコミュニケーションに活用してもらうことで、これまで考えられなかった方法による各種コラボレーションを可能にしています。たとえば、玩具メーカーのマテル社は、自社のベスト&ロングセラー商品であるバービー人形をデザインする際、世界各国に籍を置く開発スタッフとの対面による会議やプロトタイプの発送を止めました。代わりにHololensを使った会議を行い、課題や欠点を発見して、商品改良を行っています。
一言でいえば、電子ウェアラブルメガネをはじめとしたホログラフィックウェアラブル端末の強みは、斬新な方法でデータを取得し、視覚化することにあります。チームが一緒に見ながらリアルタイムで修正、変更できるレンダリングから、会議でプレゼンテーションへの集中力を切らさずにトピックの理解を補完する機能まで、この未知数の可能性を持つ端末は、世界中で日々生成される大量のデータという海へのユニークな船となってくれるのです。
電子制御システムや自動化機器を開発製造販売しているHoneywell社の産業安全事業部門で、コネクテッドワーカー(※2)とセーフティソフトウェア(※3)を担当しているディレクターのChris Munnelly氏は、テクノロジーに焦点をあてた記事が人気のテックカルチャーメディア、WIREDのインタビューで次のように述べています。「それは単なるウェアラブル端末ではありません。接続されたデバイスから得られるデータそのものなのです。これにより管理者はリアルタイムで意思決定を行い、労働者の安全を確保できるだけでなく、現場の生産性を向上させることができるのです」。
データは常に私たちの周囲に溢れていますが、それらを集め、可視化し、分析したうえで活用しなければ意味はありません。ウェアラブル端末を使用することで、いままでに例のない方法で情報を獲得し、理解し、実行に移すことができます。アメリカの技術系ニュースサイト、The Vergeは、消費者向け各種端末の状況について次のように解説しています。「これまでになく多くのデータが収集、送信、分析されるテクノロジーの時代において、ウェアラブル端末は、データを活用するための究極の姿と言えます」。

※1ライム病…詳しくはこちら(厚生労働省ホームページ)
※2コネクテッドワーカー…製造現場が抱える労働力の課題解決を目的として、デジタルデバイスを身に付けた現場作業員のことをいう
※3セーフティソフトウェア…製造現場における安全管理の徹底を目指し、安全保護具のトラッキングや現場の安全状況確認などを担う、Honeywell社の統合型管理ツール

著者: Thomas Ebrahimi
※Western Digital BLOG 記事(DECEMBER 1, 2021)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

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