「カット!今日はここまで。」
その一言から、その日の撮影を記録した35mmフィルム缶にとって、長い特別な旅が始まりました。映画の撮影技師からトラック運転手、技術者へと手渡されたこの可燃性の資産は、現像されるためにハリウッドを越えて運ばれていくのです。その後、このアナログリールはスタジオに送り返され、手作業でカットされ、つなぎ合わされます。一部のシーンは文字通りカッティングルームの床に切り捨てられます。
ハリウッドの歴史をさかのぼると、ほとんどの映画がこのようなプロセスで制作されていました。フィルムという物の必要性によって決定付けられ、統制された一連のプロセスです。フィルムは、90年代半ばに映画制作がデジタルメディアに移行するまで、一貫してひとつの業界を構築するワークフローを発展させてきました。当時、デジタルメディアは映画産業にとって革命だと歓迎されましたが、映画とそのデータに関する疑問は解消されませんでした。しかし、映像が4K、8K、そして12Kと限界を押し広げる中で、今日の映画制作者はその疑問に答えざるを得なくなっています。
多くのメディアがそうであるように、デジタルツールの到来は、クリエイターにとって自由な創造性と能力を手にする新時代の幕開けとなりました。
90年代までは、映画の創造性は制約の中から生まれていました。ドキュメンタリー番組「夢の帝国 スター・ウォーズ・トリロジーの歴史」(※)インタビューでジョージ・ルーカスは、オリジナル版「スター・ウォーズ」の彼の構想をすべて描き出すのに必要なツールがなかったため、ミニチュアを使ってイメージに近づけていたと説明しています。
ルーカスの想像力を初めて完全に視覚化できるようになったのは、ブルースクリーンとグリーンスクリーンによって環境をデジタルで作成できるようになったときでした。
デジタルツールのおかげで、編集者も同様の変革を経験しました。それまでは、化学処理されたフィルムは、当然ながらフィート単位で測ってカットされていました。ハサミでカットしたフィルムを貼り合わせてリールに巻きました。この作業を複数の編集者が何台ものツールと機器を使って行っていました。
初めてデジタルカメラと編集ソフトウェアが導入されたとき、編集プロセスへの影響はまさにゲームチェンジャーでした。デジタル技術により、映画のシーケンスの大幅な変更が簡単にできるようになったのです。編集者は、ショットの順序を思い浮かべさえすれば、自分のアイデアのラフなバージョンを何の妨げもなく作成できるようになりました。
これらのデジタル化のメリットは、映画制作をより良い方向へと変貌させましたが、映画産業をビッグデータの爆発的増加と衝突するような方向にも向かわせたのです。
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ストレージ、ワークフロー、およびデータ管理が抱える問題は、映画やテレビの解像度と忠実度が年々向上するのに伴い悪化の一途をたどっています。今日の消費者は、ちょうど4Kを見慣れ始めたところですが、8Kも始まりつつあり、すぐその後には12Kが控えています。
デジタル録音で低解像度が当たり前だった頃は、リソースは無限にあり、限界はないように感じられていました。「とにかく撮り続けよう」が当たり前の風潮でした。しかし、規模が拡大するにつれて、このやり方が持続可能ではないことが明らかになります。
まず容量の問題が生じます。メガバイトやギガバイト程度なら何とかなっても、加工前のビデオファイルがテラバイトやペタバイトのサイズともなると、この問題が顕在化します。
現代のデータストレージが驚くほどに有限であることは、その前身のセロファンフィルムとほとんど同じ状況なのです。もちろんデータを消去したり移動したりすることができるので再利用可能で柔軟性がありますが、8Kや12Kサイズのファイルをリッピング、移動、保存、バックアップするプロセスは、フィルムの現像と同じように時間がかかります。
90年代には、標準解像度のフィルムのバックアップには数分で済んでいましたが、4K映像となると、データストレージや各メディアの間で撮影データを移動する場合には、その保存に数時間かかることもあります。すでに映画は8Kやそれ以上で撮影されるようになっているので、映画産業は再びツールの制約に悩まされています。
これらのファイルのサイズ問題に伴って顕在化しているのがメタデータに関する問題です。音楽業界のデジタルトランスフォーメーションを例にとると、映画のメタデータがいかに難題であるかが良く分かります。
MP3のような、大半のデジタルオーディオファイルには、演奏者、作曲家、歌詞、アルバムアートが確認できる標準化されたメタデータが含まれています。しかし、映画になるとそれが桁違いに複雑になります。俳優や撮影場所の情報はもちろんのこと、カメラの位置、コスチューム、照明環境など、さまざまな情報を記録することができます。
このメタデータは、編集者、VFXアーティスト、その他数え切れないほどのスタッフが、完成した作品のまとまり具合を確認するのに役立ちます。さらに、映画はもはや独立した芸術作品ではなく、そのデータは映画自体を超えて活躍します。トランスメディア、すなわち複数のメディアに拡大したストーリーテリングの台頭により、しっかりと整理されたデータがより重要視されるようになりました。8K映画の映像は、予告編だけでなく、テーマパークの乗り物、プレイリスト、さらにはビデオゲームに組み込むような要求も出てくるのです。
そういったデータを管理し、ソーティングして、作品に簡単かつ安全にアクセスできるようにすることこそ、ウエスタンデジタルのSanDisk Professionalが取り組んできたことの中核です。今日の映画制作者が直面しているこの問題を軽減するため、このチームは映画産業が抱えるスタジオのデジタルワークフローの改善に取り組んできました。
サンディスクは、すべてのクリエーターにサービスを提供する取り組みの一環として、映画、写真、音楽の分野で高く評価され、刺激を与える専門家たちのネットワークを持っています。また、SanDisk Professionalは、これらの映像制作環境におけるストレージニーズは何か、いつどのようにアクセスする必要があるかなどを特定し、膨大なデータとメタデータを管理できる持続可能な社内システムの構築に取り組んでいます。
長きにわたり、映画産業にとってデータとは、「後から見直す」程度のものでした。しかし、もはやそういう時代ではないのです。
著者: Thomas Ebrahimi
※Western Digital BLOG 記事(SEPTEMBER 20, 2022)を翻訳して掲載しています。原文はこちら。