最近のコンピュータの内部を覗いてみると、さまざまなデバイスのほとんどがヒートシンクに覆われていることに気づくはずです。ところが、これまでSSDはヒートシンクとは無縁でした。SSDは消費電力が低く、可動部品による摩擦もないからです。だからこそPC用ハードドライブに代わるクールな選択肢と見なされていました。しかし、SSDが高速化と小型化の道を歩み続けている今日では、ヒートシンクが必要不可欠になりつつあり、それがホットな議論の的になっているのです。
ヒートシンクとは、エンジンを冷却するラジエーターと同じように、デバイスから熱を取り除く部品のことです。通常、ヒートシンクは過剰な熱を素早く吸収し、周囲の空気に放散できる伝導性の高い材料でできています。
現代のコンピューティングにとって、ヒートシンクは至る所にあるユビキタス的な存在です。より小さなスペースに、数多くのトランジスタなどの機能や容量を詰め込むほど発生する熱量も増加します。
最近のCPUやGPUにはヒートシンクが付き物です。デバイスの過熱を防ぎ、デリケートな内部コンポーネントを保護するためには、ファンの追加が必要となるケースも多々あります。しかし、なぜSSDはヒートシンクを採用しているのでしょうか?
SSDが登場した当初は、HDDを置き換える際にシステムを変更しなくて済むよう、HDDの外観に合せたデザインが採用されていました。しかし、市場が成熟し、PCの薄型化と軽量化が求められるようになると、フラッシュが得意とする小型化の波が来ました。
現在では、ほとんどの内蔵SSDがM.2(エムドットツーと発音します)フォーマットを採用しています。M.2は、小さくて薄い板状のチューインガムのような形をしたSSDフォーマットです。ケーブルは不要でマザーボードに直接接続します。NVMe™プロトコルとPCIe®インターフェースという2つの重要な革新的技術を活用することができます。
当初は、利便性を追求してHDDと同じストレージプロトコル(SASとSATA)を採用していました。しかし、これらのプロトコルは、ストレージデバイスとデータをやりとりする方法を管理するためのもので、フラッシュの性能を考慮したものではありませんでした。
NVMeプロトコルは、フラッシュの高速性能を活かすことを目指し、特にデータを並列に読み書きする機能を実現するためにゼロから開発されました。NVMeはまた、デバイスをマザーボードに接続する高速の「プラグ」であるPCIeインターフェースも取り入れました。
PCIe Gen4とNVMeを組み合わせたことで、M.2 SSDは高速から超高速へと進化しました。
PCIeは独自の革新を遂げています。最近、この規格は第4世代(PCIe Gen4)に突入し、データレートが第3世代に比べ2倍に達しました。前置きが長くなりましたが、要するにPCIe Gen4とNVMeを組み合わせたことで、M.2 SSDは高速から超高速へと進化したのです。
SSDに読み書きされる各ビットは、デバイスを介して数兆個のNAND型フラッシュセルのうちの1個に電気を通す必要があります。電気は常に熱を発生するため、NVMeとPCIe Gen4の高速アクセスによって、SSDは猛烈に熱くなります。
一定の温度を超えると、SSDは内部コンポーネントを保護するためにパフォーマンスを抑える必要があります。この機能のおかげで、デバイスは黒焦げにならずに済みますが、ユーザーとしては最新・最速で大容量データを扱えるからM.2 SSDを購入したのに、肝心な時に性能が低下するのは許せないでしょう。
そこでSSDのヒートシンクは、ゲーム、ビデオ、または設計ワークフローのような、持続的な読み取り/書き込み操作が必要なユースケースでは必須のものになったのです。ソニーによると、PlayStation®5(PS5)コンソールのストレージを拡張したいのであれば、ヒートシンクが必要になるそうです。
ウエスタンデジタルの製品管理ディレクターであり、WD_BLACKの開発チームメンバーでもあるJared Peck(ジャレド・ペック)は、次のように述べています。「ヒートシンクは、SSDの速度が決して低下しないようにするためのものです」。WD_BLACKは、ゲームなどのワークロードのためにヒートシンクを採用した最初のSSDの1つです。Peckは、ソニーと緊密に連携して、PS5™コンソール用のライセンスを取得しました。
「ヒートシンク付きのWD_BLACKを開発した理由は、エンドユーザーがゲームをやめてしまうことのないよう、満足できる速度を提供することでした。ヒートシンクによって、データが必要な速度に至らずにフレームがドロップしたり、グリッチが発生したりすることがなくなりました」と彼は語っています。
今日の市場には、一体型ヒートシンクから汎用の追加型ヒートシンク、さらには見栄えを良くしたいユーザー向けに金メッキされたものまで、さまざまな種類のヒートシンクが出回っています。
しかし、優れたヒートシンクの条件とは何でしょうか?
Peckによると、第一に伝導性に優れた材料が必要になります。市場にあるほとんどのヒートシンクはアルミニウムを使用しています。次に重要になるのがヒートシンクの形状です。効率的に放熱するためには十分な質量が必要です。「熱は単にヒートシンク内に蓄積されるのではなく、そこから放出されなければなりません。そのためにはヒートシンクに十分な質量が必要になるのです。」とPeckは述べています。
受賞歴のあるWD_BLACK SSDは当初、最も一般的なヒートシンク設計要素であるフィンを使用していました。フィンは、空気に囲まれている表面積が大きくなるため、対流によって熱を素早く逃がすことができます。
「私たちがヒートシンクをSSDに取り付けた方法には、曖昧な点も秘密もありません」。
その設計を手がけたのは、高性能なヒートマネジメントで業界をリードするEK Water Blocks(EKWB)社です。同社の設計は、CPUからGPU、水冷PCに至るまで、多くのコンピューティングコンポーネントに彩りを加えています。
しかしPeckの説明によると、最新世代のWD_BLACK SN 850Xでは、ウエスタンデジタルが独自に設計したヒートシンクを採用しています。
「垂直統合型ソリューションというと業界の流行語のように聞こえますが、ウエスタンデジタルにとっての実質的な意味合いは、私たちがメモリーを作り、コントローラを設計し、ファームウェアも開発したということです」とPeckは述べています。「このような高レベルのインテグレーションにより、SSDがヒートシンクとどのように相互作用するかを突き止めることで、特に重要と思われる部品に焦点を当てることができます。どのチップに注力すれば最高のパフォーマンスを得ることができるかを知ることにより、そのチップがヒートシンクの設計から最大限のメリットを得られるようになるのです。
PeckとWD_BLACKチームのメンバーにとって、最高のヒートシンクは垂直統合型のソリューションを持つ、放熱の方法を熟知している会社から生まれることが明白です。「私たちがヒートシンクをSSDに取り付けた方法には、曖昧な点も何の秘密もありません」と彼は語っています。
結局、ユーザーがどのヒートシンクを選ぶかはユースケースと予算次第です。選択肢は豊富にあります。そして、業界とPeckは、究極のSSD用ヒートシンクを熱く追求することで、近いうちにさらなる革新を遂げると確信しています。
著者: Ronni Shendar
※Western Digital BLOG 記事(AUGUST 24, 2022)を翻訳して掲載しています。原文はこちらから。