2022年08月26日
生きているデータ: 生物多様性の保護にデータはいかに役立つか

人類の活動によって地球の健全さは変わり続けており、その影響を受けているのは気候だけではありません。地球の健全さに不可欠な生物多様性も、前例のないペースで失われつつあります。微妙なバランスが保たれてきた生態系に変化が生じることで、生物が共生する環境にも大きな変化が訪れる可能性があります。影響は広範囲に及び、世界保健機関(WHO)によれば、数例を挙げるだけでも、食糧供給と経済活動に悪影響を与え、新薬の開発能力が制限されます。これは、自然保護のために人類が受け入れねばならない重要な課題を示しています。
絶滅危惧種保護の闘いでは、情報が鍵となります。生物多様性に対する人類の影響の全体像を把握するために、複数の機関がデータの収集を進めています。このデータがあれば、専門家は人類がもたらす影響を修復し、環境に調和した生き方を考えることができます。生物多様性の喪失は差し迫った脅威ですが、データがあればこの脅威に立ち向かうことができます。

必要なデータとは

生物多様性の喪失を把握するには、多様なデータが鍵となります。最初のベースラインを設定するために、複数の自然保護団体が協力し、収集された生物多様性データの状態を示す論文を発表しました。
国際自然保護連合(IUCN)の「種の保存委員会(Species Survival Commission)」のSpecies Monitoring Specialist Groupで議長を務めるPJ Stephenson博士は、オンラインサイト「re:wild」でのインタビューで次のように述べています。「自然保護の活動家が生物多様性をモニタリングするのに役立つデータは世界中に存在します。しかし、それらがどこにあって、どのように使用すればよいか、多くの人が知りません。おかしなことと思われるかもしれませんが、世界中にあるデータソースの概要を誰もまとめようとしなかったようです」。

このデータベースに寄与した組織の1つがNASAです。NASAは、衛星やその他のテクノロジーを使用して、温度、位置、湿度、光反射などのデータを収集しました。これらのデータは、科学者が特定の種への脅威を理解する起点となります。生物多様性の喪失の第1の原因は生息地の喪失であり、温度と含水量を長期的に把握できることで、種とその環境へのストレス因子を特定することができます。

このデータの意味

種を絶滅の脅威から救うための実行計画を科学界が立案するには、国連やNASAなどの組織によってまとめられたデータベースが不可欠です。
たとえば、NASAは衛星の位置データを使用してリベリアのウエスタンチンパンジーの移動パターンを調査しました。チンパンジーの生息地は人間の産業拠点と重なるため、人間との接触の機会があり、残る生息地も失われつつあります。調査結果は生態学ジャーナル『Diversity and Distributions』に論文として掲載されました。この調査では、位置データを調査の重要な側面と位置付けています。執筆者は、絶滅の危機に瀕した動物の調査と保護重点領域の特定は研究の重要な起点であり、どちらもGPSデータなしでは不可能であると強調しています。
同様に、米国農務省林野部も衛星の画像データを活用し、過去30年にわたり、太平洋岸北西部のニシアメリカフクロウの生息地を調査しました。同局は画像から植生、水、裸地を特定し、この情報を使用して、産業がフクロウの生息地を脅かしていることを地図に示しました。この取り組みによって長期的な傾向を把握して、ニシアメリカフクロウは現在も絶滅の危機に瀕していることが判明しました。
米国農務省林野部の野生生物学者Raymond Davis氏は次のように述べています。「ニシアメリカフクロウの個体数は減り続けており、その主な原因はアメリカフクロウです」。Davis氏は、データをさらに収集することによって事態を前進させることができると考えています。「ニシアメリカフクロウの生息地の状態と傾向を追跡するためにリモートセンサーを引き続き使用する必要がありますが、アメリカフクロウの存在など、他の変数も計算に入れる必要があります」。
データは、動物そのものに関する知見以外に、生息する生物を増やし、保護するための土地の管理方法について、深い知見を与えることができます。UCLAは、土地管理局(BLM)による土地管理をサポートするために、NASAのリモートセンシングデータを使用して、生態系の健全性を正しく判断するための情報とツールを提供しています。また、ハワイ大学海洋生物学研究所の研究者たちは、このデータを使用してサンゴ礁の病気の発生を予測しています。さらにNASAは放射計で蒸発散量をモニタリングし、植物のストレスに関する情報を入手しています。

私たちのデータ、私たちの世界

壊れやすい生態系を保護するための最新鋭の研究にこれらのデータセットは不可欠であり、こうしたデジタル情報を共有することは重要な次のステップです。この点を踏まえ、生物多様性に関するデータの公開、政策立案者の支援、ステークホルダーへのオープンデータの提供を目的とした国連生物多様性ラボには、NASAが収集したデータの多くがすでに収められています。国連で採択されたSDGsの17の目標の多くは、生物の多様性と生息域、地球全体の健全性の保護に直接言及しています。収集、整理されたデータは、これらの目標に向けた歩みを直接サポートすることになります。

小さな規模で考えれば、生物多様性の喪失は、全世界の人類の生活を劇的に変える可能性があります。自然との調和が失われることで、人々の暮らしや安全が脅かされ、生活物資に不可欠な動植物の不足に拍車がかかります。また、病原体の再発生を助長して、ライム病やウエストナイルウイルスなどの病気の流行の原因となり、世界的な健康危機を引き起こします。こうした変化は世界の人々を危険にさらし、貴重で影響を受けやすい生活必需品に脅威をもたらします。
結論を言えば、データセットは世界を正しい方向に前進させます。正しい方向とは、地球を守り、人類と共生する生物を守ること、そしてより良い世界を作るために必要な知識を持つことです。つまり、データは、地球を望みうる最良の姿にするための立役者です。気候変動に対する人類の行動の可能性は無限です。収集したデータがあれば、道を妨げるものは何もありません。

著者: Thomas Ebrahimi
※Western Digital BLOG 記事(JANUARY 20, 2022)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

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