2021年08月27日
次のゲームチェンジャーはクラウドにあり

ゲームチェンジャー

2000年代に最もプレイされたゲームは、任天堂の「Wiiスポーツ」でも「グランド・セフト・オート」でも「ザ・シムズ」でもありません。それは「マインスイーパ」(※1)でした。地雷を取り除くこのゲームは、1992年にウインドウズパソコンにプリインストールされて登場しました。当時は、マイクロソフトのビル・ゲイツが友人のオフィスに忍び込んで遊んでいたほど魅力的なゲームでした。「マインスイーパ」の本来の役割は、プレイヤーに右クリックと左クリックの使い方を教えることでしたが、その技術を習得するだけでなく、何十年にもわたって愛されてきました。マイクロソフトは、2012年にWindows 8がリリースされるまで「マインスイーパ」を削除しませんでしたが、その時点では別のゲームが席捲していました。「マインクラフト」という、興味をそそることを目的とするインディーズのサンドボックス(仮想環境)ゲームでした。

時に、状況を一変させるようなゲームが登場するものです。ゲーム市場は弱肉強食の世界です。一旦そうなってしまうと、開発者はしばらくの間、模倣品を出すことしかできず、また、普段ゲーマーでない人たちでさえそのゲームに夢中になります。現状を乗り越えて出現するこれらの「ゲームチェンジャー」を特徴づける1つの潮流を見つけることは難しいことです。「マインスイーパ」、「マインクラフト」、「フォートナイト」はすべて楽しいゲームですが、それらは皆、最適なタイミングで最適な場所に現れたといえます。しかし、それだけでは、業界を予測する人々にとって何のヒントにもなりません。

ゲームチェンジャーが出現する適切なタイミングと場所は、どうやって予測するのでしょうか?見るべき視点はたくさんあります。1つはゲームを支える技術、特に最近広く普及し、信頼性が高まっている技術に注目することです。最初のiPhoneがリリースされてから3年後に「アングリーバード」がモバイルゲームの寵児になったことや、「マインクラフト」の発売にストリーミング技術の普及が背景にあったことを考えてみてください。

そして今、大勢の人々がクラウドゲームに賭けているのは、このような理由によるものです。

見るからに壮観

「クラウドゲームは、成功しそうに思えますが、まだ歴史が浅いため、どのように機能するかを正確に把握するための努力が必要です」と、GamesIndustry.biz(※2)の編集者ブレンダン・シンクレア(Brendan Sinclair)氏は述べています。最近ではFacebook、Google、Amazonもこの流れに乗っています。

クラウドゲームの秘めた可能性とは何でしょうか?シンクレア氏は、「自宅に高性能のスーパーコンピューターがなくても、クラウドのどこかにあれば、ゲームを楽しむことができます」と説明しています。クラウドは、普通のコンピューターで強力なサービスを提供し、データ量の多いゲームを誰でもどこでもプレイできるようにします。

しかし、この能力をゲームデザインにどう生かすかは、シンクレア氏の言葉を借りれば「百万ドルに値する課題」になります。これまでのところ、シンクレア氏が耳にしたクラウドゲームに関する議論は、ほとんどがスケールの観点に限ったものでした。たとえば、クラウドゲームでは、一人称視点のシューティングゲームに、100人ではなく1,000人が同時に参加することができます。「エンドユーザーにとって、なぜ100人以上のプレイヤーがいることが本質的に面白いのかという議論は聞いたことがありません」と彼は述べています。

クラウドは、大量の個人ユーザーを同時にサポートします。MMO(Massively Multiplayer Online、大規模多人数型オンライン)のように、ある人はPCから、ある人はスマートフォンから、すべてのユーザーが同時にプレイできます。Makers Fund社のベンチャーパートナーであり、テック業界を占う立場にもあるマシュー・ボール(Matthew Ball)氏は、このジャンルを「Massive Interactive Live Event(MILE:大規模なインタラクティブライブイベント)」と呼んでいます。彼はMILEを「ハンガーゲーム」になぞらえました。このゲームでは、ユーザーだけが自らアリーナでプレイするか、スタンドから登場するプレイヤーのためにコースを形成するかを選択できます。初期のMILEの例としては、ウェブサイト「Reddit」で行われた「Place」という実験プロジェクトがあります。これは、すべてのユーザーが同じタイルセットを限られた時間の中で色を塗るというものです。もう1つの例として、2014年に始まった「Twitch Plays Pokémon」があります。これは、数千人のTwitchのストリーマーが持っている古いポケットモンスターのゲームを同時に操作するというものでした。

MILEは将来が約束されたジャンルかもしれませんが、その実現にはいくつかの大きな障害があります。第一に、MILEはその定義上、極めて大規模であることから、クラウドベースのMILEゲームチェンジャーには、最初から膨大なユーザーベースが必要になります。

シンクレア氏にとって、これらのスター要素がすべて揃っても、次のゲームチェンジャーがクラウドをうまく活用しゲームに革命をもたらすかは不透明なままといいます。「そのゲームは本当に素晴らしくなくてはならないし、一世一代の幸運にもめぐり合わなければなりません」と彼は語っています。

とんでもないことが起きるかもしれない、と考える業界関係者は増え続けているのです。

大規模化、高速化、低コスト化

「スティーブン・ジェイコブス(Stephen Jacobs)教授は、ロチェスター工科大学のインタラクティブゲームメディア学部で教鞭をとっていますが、彼は賭け事が嫌いです。

「今から3、4年後にこの業界で何が起こるかを予測する人は皆、馬鹿者としか言いようがない」と彼は冗談を飛ばしています。

ジェイコブス教授は、VRの第一から第三の波まで体験してきました。彼は、新しいテクノロジーの見た目の派手さは、それが採用されることとは無関係であることをよく理解しています。ゲーム業界は一方向に突き進んでいます。「テクノロジーを取り巻くすべてのものは、常に大規模化、高速化、低コスト化しています」。

クラウドゲームが大変刺激的な投資先であるのは、新しい芸術をもたらす可能性があるからではなく、ストリーミングが成功を収めたビジネスモデルと同じだからです。もちろん、大手テック企業が次にくる「フォートナイト」のような存在に資金を提供することになるかもしれませんが、これは、クラウドゲームで人気のサブスクリプションサービスになるという、より大きな目標があればこそです。

ジェイコブス教授は、クラウドがゲームプレイを変えるとは考えておらず、企業がゲームを大規模化、高速化、低コスト化するための、新たな方法に過ぎないと考えています。教授にとっては、MILEでさえ過去のニュースのように感じており、ゲームのストーリーが大きく変化したことによる必然的な副産物と捉えています。

「ビデオゲームの遊び方は、地下室に1人こもってプレイするという古い固定観念から、家族や友人が同じリビングルームで同じゲーム機に向かったり、ネットワークでつながったグループであったり、あるいはその両方であったりと、主に参加型のグループへと進化してきました」と教授は述べています。

Echtra Games社の共同設立者でソフトウェアエンジニアでもあるジャスティン・ミラー(Justin Miller)氏は、この大きな展開こそが、ゲームのクラウド化の醍醐味だと考えています。「私にとって、(クラウド技術の)本当に面白い点は、プレイヤーにはそれが見えないことです」と彼は言います。クラウドでは、ライブセッションのプレイヤーのマッチングなどのプロセスを完全にシームレスにすることができます。

ミラー氏は次のように述べています。「プレイヤーにとっては、オンラインプレイの方がよりスムーズになるのです。発売初日にはログインしないこと。なぜなら正常に動作することはあり得ないので、といった一般的な習慣は不要になります」。クラウドストレージを使用することで、ゲームはテクノロジーの存在が見えなくなるほど柔軟に拡張できます。世界中の人々が新しいゲームに夢中になってプレイしているとき、クラウドを介したそのゲームは、まるで全世界そのもののように感じられるかもしれません。

たとえ偶然であれ、そのようなゲームを作ることができれば一生に一度のビジネスチャンスになります。

映画のようなゲームの世界が到来

ゲームチェンジャーを予測するのは困難です。なぜなら、本質的に予測不可能だからです。マインスイーパは論理ゲームであると同時に、プレイヤーにコンピューターの使い方を教えるツールでもありました。マインクラフトは、サンドボックスゲームでありながら、コーディングプラットフォームでもあると、シニアビデオプロデューサーのシモーネ・デ・ロシュフォール(Simone de Rochefort)氏は、Polygonのビデオエッセイの中で主張しています。ニューヨークマガジンのブライアン・フェルドマン(Bryan Feldman)氏によると、フォートナイトはソーシャルメディアのように機能するため、地球上で最も重要なビデオゲームだそうです。

21世紀のゲームチェンジャーは、ジャンルの限界を超えてゲームを進化させてきました。それは、まだ名前のない何か別のものになりつつあります。たとえば、自分で選択する方式のアドベンチャームービーのように、直感的に操作できるので、プレイヤーは毎回チャプターをめくることを意識することはありません。ロアーク・ヒロメン(Roark Hilomen)は、これを「インタラクティブシネマ」と呼ぶことを提案しました。

ヒロメンは、ウエスタンデジタルの企業戦略担当シニアディレクターです。3人のゲーマーの子供を持つ父親で、ゲーマーでもあるヒロメンは、何年もこの市場に注目してきました。クラウドストリーミングでは、膨大な数のユーザーが、ゲーム機で人気のあるギガバイト級のゲームをプレイすることはできません。少なくとも今はできません。しかしヒロメンは、やがてこのような広大でシームレスな映画のようなゲームの世界が到来すると信じています。

開発者たちが、大規模なライブインタラクションを楽しめる方法を考えてくれればですが。

「ロード・オブ・ザ・リングを大勢の人がプレイしている場面を考えてみてください。突然Gankerがやってきて、プレイヤーの半分が殺されたとしましょう」とヒロメンは述べます。「Ganker」とはゲーム用語で、弱いプレイヤーを狙って攻撃を行うプレイヤーのことを指します。ヒロメンによると、インタラクティブシネマは、基本的なルールがあって初めてストーリーを伝えることができるとのことです。

「(ゲームにとって)完璧な組み合わせは、便利であることです。スマートフォンでプレイできることです。ストーリー性があり、プレイヤーを惹きつけるコンテンツがあることです。また、一部の希望する人々とだけ交流することができ、他の人とは迷惑にならない程度にやり取りすることができることです」と彼は述べます。群集はただ攻撃するだけではなく、自ら冒険を作り出すのです。どのようなデバイスからでも、親しい人達や、人々の広範なネットワークと共に、映画のようなコンテンツを楽しむことができます。ヒロメンにとって、これは新しいジャンルになりつつあります。

そして、クラウドがそのホストであることは間違いありません。「クラウドゲームには利便性があります。すぐにアクセスでき、ソーシャルな交流が可能になります」とヒロメンは述べています。

クラウド技術を通じて、ゲームはインターネットの双方向性を十分に活用することができ、映画やTV番組のように、特定の方法で物語を明らかにする「固定されたメディア」とは対照的に、自分で物語を書けるオープンブックになっています。「ゲームをすることは物語を語ること」とヒロメンは説明します。このような世界をプレイすることは、ゲームメディアに手直しを繰り返すことで、無限の物語の中の1つの章を語ることです。

ジェイコブス教授が描く、現代のネットワークゲームのイメージは、家族が暖炉を囲み、最新の一人称視点のシューターによって物語を共有し創作している姿です。

クラウドのMILE

ヒロメンによると、インタラクティブシネマが一般に普及するのは、少なくとも3〜5年後になるそうです。彼は、次のゲームチェンジャーが何になるかを予測することはできないし、それがクラウド上にあるかどうかも断言することはできないと言います。それでも彼は、ゲームとクラウドから相乗的な関係を読み取っています。

ゲームは、インタラクティブで、ソーシャルで、シームレスなものへと進化を遂げており、かさばるゲーム機を抱える必要がなくプレイに没頭できるようになるでしょう。データストレージに関して言えば、すでにクラウド経由でこのようなトランスフォーメーションを遂げています。消費者は、自分で所有する物理ドライブではなく、クラウドストレージを購入できるようになりました。技術は目に見えないものになりましたが、データ保存プロセス全体も同様です。ファイルを取り出す作業は、機械的というよりも生物学的なプロセスのように感じられます。すなわち、記憶を思い出すような感覚にとらわれます。

この相乗効果をうまく活用するゲームチェンジャーが出現すれば、状況は一変し、ゲームは現実世界から逃避するためのプラットフォームではなく、現実世界を構成するものになるような、新たなジャンルが切り開かれる可能性があります。

「大規模でインタラクティブなライブイベント」とは、ゲームの種類を指しているかもしれませんが、別の意味では、人生そのものなのかもしれません。近いうちに、私たちは皆、クラウドから人生をプレイするようになるのかもしれません。

※1…詳細はこちら(英文)
※2…Gamesindustry.bizサイトはこちら(英文)

著者: Sophie Dillon
※Western Digital BLOG 記事(MARCH 3, 2021)を翻訳して掲載しています。原文はこちらから。

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